第九部 第四章
「椎原くぅぅん? どこにいるのかな? 椎原要くぅぅぅん? いるのは分かっているんだよ? 」
囁くような嫌な言い方で、ダンジョンの一階層に声が響き渡る。
まるであざ笑うような感じだ。
「え? 」
俺が前世の名前を言われて動揺した。
動揺したが、すぐに隠した。
100人ほどの手練れをつれて、何か神官みたいな人がこちらに歩いてくる。
服装は紫色に銀糸を使い、地味に渋い恰好だ。
前に掃除する人とそこに赤いくるくる巻いたカーペットを敷く人がいる。
執事と言うより歌舞伎とかの黒子の格好に近いから、おつきの世話係なのかもしれないが……。
そして、次々と継ぎ足し継ぎ足し敷かれていく赤いカーペットの上をその神官がしずしずと歩いている感じだ。
こんな状況なのに、全然と平然とこちらに歩いてくる。
周りは俺たちを警戒しているようだが、そこに殺気が無いからなのか、<トゥルーラブ>はそのまま立っているだけだ。
守るにしても殺気が無いと動かないとか<トゥルーラブ>にも困ったもんだな。
暗示は二重にかけてあるのに。
「ははっ! 」
ヨハンネスが即座にその場にひざまずいた。
それと同時に<ワールドハイドゥ>の全員も同じように跪いた。
それを全く気にしないようにその神官はこちらにカーペットの上を歩いている。
他人が自分に跪くのが当たり前の地位らしい。
全くヨハンネス達を気にしていない。
そうこうしているうちに、その神官は俺の目の前に来た。
そしたら、プシュブシュと黒子みたいな人達が俺たちに香水と言うかお香というか、そういう匂いを大量に俺達に振りまいた。
俺達が臭いってか?
ちょっとイラつく。
「お前は椎原要だよな! 分かるぞ。アチアチカップルのアニサキスと名乗っているようだが……」
そして、目の前で改めて、にやっと笑うようにその神官が俺に話した。
ああ、和貴だ。
間違いない。
表情に初めて和貴らしい雰囲気が出た。
「おいおい、久しぶりに会ったのに、俺にあいさつはないのかい? 友達だろ? 」
そうやっていたぶるように俺に聞いた。
微妙に高圧なところは変わらないんでやんの。
「そんな事ありましたっけ? 」
俺がとぼけた。
「おいおい、アチアチカップルのアニサキスだろうが? 」
ヨハンネスがその低い声で突っ込んだ。
<ワールドハイドゥ>の何人かも憤ったように立ち上がるものもいた。
お前らギルドキングダムの冒険者だろうに。
ちょっとイラっとする。
どこの世界に自分のコードネームをペラペラと明かす奴がいると思うんだ。
馬鹿じゃねえのか?
そもそも、和貴は俺を殺した奴だし、今の立場はギルドキングダムの最大の敵の神聖帝国のゼス神聖皇帝だぞ。
それで俺がむっとした顔をした。
「あーあーあー、俺がナイフで刺して殺したことを、まだ根に持っているのか? 」
俺を揺さぶるように和貴が話す。
「は? 」
「え? 」
「えええ? 」
だが、揺さぶられたのはヨハンネスと神聖帝国の周りの護衛達だった。
ずーっとお付きの人もいるから、そら神聖皇帝がこの世界で人を刺してたら記憶に残るもんな。
「やれやれ、じゃあ、話を変えるか? 進藤結衣は元気か? いや、進藤ケメコか? 」
「はあああ? 」
俺が進藤結衣だけでなく、そのペンネームまで言われて我慢できずに叫んだ。
なぜ、そのペンネームを?




