第八部 第八章
そこまで考えて、ある事に気が付く。
<剣聖>が果たして剣を練り直すとか言う必要がいるのかどうか。
すでに<トウルーラブ>が<剣聖>を超える技量で挑戦者を悉く撃破していた。
何しろ、無茶苦茶強いのだ。
当時、男爵家の次男だったが、男爵家を継がすべきかとかいろいろあったくらいらしい。
だから、<剣聖>は何もする事が無かったはず。
だが、<剣聖>としての向上心から新技を練ったという事か?
それも違うな。
もっと現実を見ているタイプだった。
となると……まさか……。
「これ……多分、<剣聖>の対<トウルーラブ>用の新技だ……」
それで思わず声が出てしまう。
「はあ? 」
「何? 」
それを<疾風>さんも<剣鬼>も即座に気が付いてしまった。
<剣聖>最強の弟子こそ、自分を脅かす最強の敵だったのだと思う。
だからこそ、武の頂点に立つためにも、もはや無視できる存在ではなくなった。
自分の代わりに挑戦者を撃退する道具として育てたものが、自分を脅かす存在になったのだ。
隠遁していたとはいえ常在戦場の剣に命を懸けた人物として、自分より優れたものは放ってはおけない。
多分、それでダンスの中に異様に妙な動きがあるわけだ。
それは愚直な<トウルーラブ>を騙すために。
そう言う動きで勘違いさせるために変な殺気を込めて反応せざるを得ない技の動きが入っている。
それで、それに匹敵する技量の<剣鬼>が無視できない。
「それで、異様な動きがダンスにあるのか」
<疾風>さんが即座に気が付いた。
難しく考えることは無い。
単に、愚直な<トウルーラブ>を騙すための動きが入っているだけだ。
それに、<剣鬼>が同じように引っかかっているのが悲しい現実だが。
「くっ! ふさげるな! ふざけるなぁぁぁ! 」
ついに<剣鬼>を抜いて斬りつけた。
だが、それはダンスに想定されている。
神速!
まさに神速の勢いで<トウルーラブ>が剣を抜く間も見せず<剣鬼>の剣が弾かれる。
それで<剣鬼>はさらに動揺していた。
今まで自分の剣が弾かれたことなど無いのだろう。
そして、それを自分が一番嫌いなタイプの<トウルーラブ>がしてしまうのだ。
そして、俺は気が付いてしまった。
相手の目前で手を叩く動きの真意を。
そう言う技が相撲にあったわ。
「猫だまし……」
「は? 」
当然、そんな技はこの世界に無いから、誰も訳が分からない。
その前の意味不明のダンスはそれに導かせるための誘導かっ!
「パァァァン! 」
自らの剣が弾かれた動揺し、体勢を取り直そうとした<剣鬼>の前で<トゥルーラブ>の手が叩かれる。
それで<剣鬼>はびくっとして剣を再度振るが、それはワンテンポ遅れていた。
そこを<トウルーラブ>が一閃した。
剣が飛ばされるとともに、そのまま袈裟斬りに一閃したのだ。
<トゥルーラブ>の記憶で練習の中の<剣聖>のダンスで何故か最後に抜刀するのが良く分からなかったが、そう言う意味だったのか。
<剣鬼>は人生で初めて負けた。
自分の一番嫌いな奴に。




