偶然と書いて運命と読めるか?
「今の吾輩の魔力はこれくらいだ。勇者に猫の姿にされてしまったからな」
淡々と話すヴォルフラムだが、既に『魔王』という言葉に混乱している悠姫は『勇者』と言われてもいまいちピンとこない。
「勇者って…」
思わず口にしてしまったがここは街中。周りには人がたくさんいる。そんな中で猫に話しかけるなど「私は変人です」と言っているようなものだ。
―――――――――…とりあえず、家?
家で動物は飼っていない。母も父も動物嫌いじゃない。この条件ならば家に連れて帰っても問題は、ない。しかし猫を、しかもしゃべる猫を連れて帰るのに、どれだけの勇気が必要だろうか。しかし彼の話も聞きたい。
―――――――――成せば成る!…かな
長く悩んだ末、ヴォルフラムを抱き上げた。
「何をするのだ?」
ヴォルフラムは焦る様子もなく静かに尋ねてきた。
「家に行くの」
「何故だ?何の必要がある?」
「こんなところじゃ、あなたの話は聞けないでしょ?」
「フム、理解力はないが判断力はあるのか」
―――――――――…失礼な猫!!!!!
とにかく家にヴォルフラムを連れて帰ってきた。ずっと抱いているのも大変なので、彼には自分で歩いてもらった。
「ただいまぁ…」
そう言って玄関の扉を開けるとそこには、栗色の毛をした猫がいた。
「ね、猫?」
悠姫が驚いていると、リビングの方から「おかえり」と言って母が出てきた。
「あぁ、この猫?斉藤さんがね、拾ったらしいんだけど彼女の家ペット禁止なのよ。だから引き取ってきたの。あら?その猫ちゃんは?」
母がヴォルフラムのことを見て言った。こんな偶然あるだろうか。母と娘が同じ日に猫をもらうにしろ拾うにしろ、家に連れて帰ってくるなんて。
「拾ってきたんだけど…飼えない、かな?」
半ば諦めたように言った悠姫だが、それに反して母は「そんな事ないわよー」と明るい声で言った。
「猫ちゃんなんて一匹だろうが二匹だろうが変わらないわ。カワイーし」
そんなことを言いながら二匹の猫に頬ずりしている。二匹とも抵抗できないまま、されるがままになっている。
――――――――あれ?ヴォルフラム、喋らないんだ…?
不思議に思ったが、悠姫にとっては都合が良い。魔王だの何だのと言っても母を困らせるだけだ。あの時のように…
「ねぇ、このコたち、名前どうしようかしら?」
頬ずりは満足したらしい母が聞いてきた。悠姫は、少し悩んでから思いついたように言った。
「黒いのがヴォルフラム、茶色いのがユーキアータ」
「何?その名前?もっと猫らしいタマとかにしたら?」
悠姫の答えに驚いたように母が言ったが、悠姫は譲らず結局ヴォルフラムとユーキアータになった。
――――――だってヴォルフラムに別の名前つけるの面倒だし、ユーキアータは栗色の毛に琥珀色の瞳。ぴったりでしょ。
「何故あの猫にユーキアータという名前をつけたんだ?」
悠姫の部屋でくつろぎながらヴォルフラムが言う。さっきまで一言も喋らなかった割に、そこには関心があったようだ。
「別に。ただ何となく思いついたから。だめだった?」
「いいや」
普通に会話をしていたが、実際問題この猫、ヴォルフラムは魔王なのだ。しかも今日初めて会ったのだ。
――――――――私、結構人見知りするタイプだったと思うんだけどなぁ…
こうして悠姫とヴォルフラム、ユーキアータの生活が始まったのである。




