悠姫と書いて許婚と読めるか?
「お前は、吾輩の許婚であったではないか」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――は?今なんと?
許婚って、あの許婚?親同士が決めるという結婚のお約束のこと?
通常ならば、いやこの状況でも信じられない。まるで魔法がかかったように動きを止める世界にいても、自ら魔王と名乗る青年がいても、自分に許婚がいるなんて事信じられないし、第一私の名前は麻野川悠姫だし!!!
「あの、一体何が起こってるんですか?それに許婚って?私は麻野川悠姫っていう名前なんですけど?」
頭に浮かんだ疑問を片っ端から並べていたらきりが無いので、要点だけを問う。一瞬冷静な態度に思えても、かなり混乱しているほうだ。しかし悠姫は冷めているというか、感情をあまり表に出さないからそう見えるだけで、本当はこの世の終わりくらいには混乱している。
「一体何が起こっているのか、か。フム、それについてはそうだな、さっき言ったとおり世界が止まっているとしか言いようがない。許婚とは読んで字のごとく、だな。最後のお前がアサノガワユウキだというのは、お前の勘違いだ。お前の名はユーキアータだ。本当に覚えていないのか?」
一つ一つの質問に、マイペースに、丁寧に答えていく自称魔王のヴォルフラム。しかし、悠姫が欲しい答えはひとつも返ってこなかった。
――――――覚えていないのかって…どういう事?
「あの、言われている意味が分からないんですけど?」
とりあえず素っ頓狂な事を言っているヴォルフラムの言わんとすることを理解しようとして、更に丁寧な説明を促す。信じていいのかも不明だが、とりあえず彼に頼るしかない。
「フム、理解力が悪くなったなユーキアータ。まぁ良いだろう、説明してやる」
――――――――ユーキアータじゃないってば…
「―――と言いたいところだが、そろそろ時間切れだ」
彼が言うが早いか、突然車の音がした。よく見ると道にも人が歩いているし、建物の中にも人の気配がするようになっていた。しかし、それと同時に青年は消えていた。代わりにあの黒猫がいたけど。
「ど、どういう事…?」
力が抜けて、悠姫はその場に座り込んでしまった。ちょうど歩道の真ん中あたりだったので、おばさんに「大丈夫?」と声をかけられたけれど、その声のおかげで我にかえることができた。
「あっ、すいません。大丈夫です」
そう言って黒猫の場所に行く。そうすれば何とかなる、という確証の無い確信。
案の定、黒猫は悠姫に話しかけてきた。
「今の吾輩の魔力はこれくらいだ。勇者に猫の姿にされてしまったからな」
―――――――――勇者ってそんな事すんの?




