敵対と書いて勇者と読めるか?
―――――何かが、おかしい気がする…
ヴォルフラムは悠姫の家を出てから、ずっと同じ事を考えていた。近所を転々とし、色々な人間を見る。店を商っている者、会社に向かう者、学校に向かう者、買い物に出る者、全てがおかしい。
確かにヴォルフラムにとっては慣れていない世界なので、本質は分からないが、それでも何かが違うと感じていた。
―――――何だ?アイツが絡んでいるのか?
ヴォルフラムの言うアイツとは、『勇者』のことである。勇者とは魔王の敵である。
「勇者って、そんな人なの?」
「あぁ」
「でも勇者って普通、正義の味方でしょう?」
「じゃあ、魔王は悪か?」
「それは…」
「勇者だから善、魔王だから悪なんて簡単には言えない。だが実際に、力を持ちすぎる魔王は悪になりやすいし、その敵である勇者は善になりやすい。それが人間に変な先入観を与えた」
「だから、魔王に逆らう人間が増えた…?」
「そうだ。そして魔族の中にも反逆者が現れた」
「………」
「その結果、勇者は吾輩を猫の姿に封じ、魔界をも脅かしている」
「じゃあ、魔王と対立する者が勇者で、勇者の敵が魔王?善悪なんて関係ないの?」
「そうだ。今の勇者は完全に『悪』だ」
悠姫に話したこと。嘘も偽りも無いが、彼女の、ユーキアータの記憶が戻ったのであれば、偽りと思われることもあると思う。無いとは言い切れない。彼女は――――――
―――――フン、バカバカしい。アイツが帰ってきたのなら、それまでだ。
たとえ、それがヴォルフラムへの愛からじゃなくても、ユーキアータはヴォルフラムのところに戻ってきた。まだチャンスは、ある。何とか考え直させることも出来る。
―――――だから諦めないぞ、ラディ。
ヴォルフラムは家に帰り、準備をし始める。猫の姿ゆえあまり準備は進まないが、それでも準備を始める。目の前に迫っているその時のために―――――




