否定と書いて恋愛と読めるか?
光が次第に弱まり、悠姫も水樹もヴォルフラムもお互いの姿を認識できるようになった。水樹は少し疲れたような、ヴォルフラムは猫と言えどもどことなく寂しそうな、そして悠姫はとことん驚いた顔をしていた。
「…ゆっきー…いえ、ユーキアータ様。お目覚めに、なられましたか?」
水樹が口を開いた。その口調はいつもと違っていて、背筋も伸びている。ヴォルフラムは何も口にしない。そして悠姫は、静かに口を開いた。
「ええ。ありがとう、メルセデス」
悠姫、もといユーキアータは微笑む。その顔は、天使のように美しかった。そしてユーキアータはヴォルフラムに向き直る。
「ユーキアータとして会うのは、久しぶりですね、ヴォルフ。お会いしたかった」
「…そうか」
ヴォルフラムは小さく返事をした。どうやら機嫌が悪いらしい。その理由を、ユーキアータは知っていた。
「貴方は何故、『悠姫』に記憶を取り戻させなかったのですか?」
意地悪そうにクスリと笑うユーキアータの顔は、天使ではなく悪魔にでさえ見えてしまうものだった。ヴォルフラムは、返事をしない。
「貴方はまだ、私を諦めていなかった、という事ですか?」
「…自意識過剰だな、ユーキアータ」
弱弱しいヴォルフラムの言葉は、意地にしか聞こえなかった。
「…そう」
そう言ってユーキアータはヴォルフラムに近づいた。
「もう………ヴォルフったら可愛いんだから」
ユーキアータはヴォルフラムに頬ずりをしながら、ギューッと抱きついた。その様子にヴォルフラムも、メルセデスと呼ばれた水樹も唖然としている。
「な、ユーキアータ様!?」
「ユーキアータ、何をする!?」
飽きずにずっと頬ずりをしていたユーキアータは、その手を止めた。
「何って、久しぶりに会えた幼馴染にギューッと…」
「「そういう事ではなくて!!」」
二人が同時にツッコミを入れる。そして最初に口を開いたのはメルセデスだった。
「ユーキアータ様、彼は魔王ですよ!?彼はラディスラス様の、勇者の敵です!」
「そうね」
興奮気味のメルセデスに、落ち着いた声で返事をするユーキアータ。その態度は、メルセデスには腹立たしいものだった。
「!!貴女は、ラディスラス様を裏切るのですか!?」
もの凄い剣幕で尋ねたメルセデスの様子に、ユーキアータはクスリと笑った。
「貴女は、ラディのことが好きなのね。でもそれは、愛じゃないわ」
そこで少し間を空ける。笑顔はどこかへ消え失せ、その無表情な整った顔は、彼女の心を隠すようだった。
「あの人は、間違っている。それを認めることは、愛とは呼べないわよ?」
メルセデスの顔は怒りで真っ赤になっていた。
「な、何を…」
「ユーキアータ、お前は何がしたい?」
メルセデスが否定しようとして発した言葉は、しかしヴォルフラムの声にかき消された。まだユーキアータの腕の中にいたヴォルフラムは、するりとその腕から逃げる。
「吾輩を裏切り、許婚の件も破棄。そして勇者の下へ行ったのは、お前の意思ではないのか?」
ユーキアータは答えようとしなかったが、その場の静けさとヴォルフラムの鋭い瞳に観念したように口を開いた。
「…いいえ。あれは私の意思よ」
「では、何故今になって戻ってきた?」
「それはね…」
ユーキアータは意味ありげな微笑を浮かべた。




