第1章 春 第8節 涼風
第8節 涼風です。
花火が見たくなってきました。
ぜひご一読ください!
涼風が吹き抜ける今宵、夏祭りが開催される。
「なぁ、夏祭り一緒に行こうぜ!」
島で唯一のイベントである夏祭り、屋台もたくさん出る。
「いいね。一緒に行こう。」
「毎年恒例だな。」
俺となおが夏祭りに一緒に行くのは数年目だ。
「じゃあ、17時にいつもの場所へ集合な!また夜に会おうぜ!」
「そうだね。ばいばい。」
「やったー!今年もなおと行けるのか。楽しみだな。あ、今年は射的をしようかな。去年は食い物買いすぎて金が無くなったからな。」
俺は目を細める。
「母さん、ただいま!」
「かず、おかえりー!」
「今日、なおと夏祭り行ってくる!」
「暗いから気をつけるのよ。街灯も全然ないから。」
「はーい!」
母に許可を得た。
だから、なおと楽しめる。
「甚平着ていこう!何色にしようかな。」
何色にしようか悩んでいると、ふと思い出した。
『 かずは、幽艶な黒髪が綺麗だよね。紺青とか似合うねぇ。海の持ち主みたいだなぁ。』
『 なおは、髪の色素が薄くて、艶めく栗色がかっこいいよな。だから、蜜柑色とか似合うよな。みかんに愛されているみたいだ。』
そんな会話を想起した。
だから、俺は紺青色の着物を選んだ。
悩んでいると時計の針が時間を刻み続けていたことに気づく。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気をつけてねー。」
「かずくん、こんばんわ。」
「瀬乃さん、こんばんわ!」
島生活というのは、人との距離を縮めやすいらしい。
島民、全員の名前が当たり前に分かる。
「堺さん、こんばんわ!」
「かずくん、こんばんわ。今年もなおくんと屋台巡りをするのかい?」
「はい!」
「そうなんやね。僕も夏祭り行くんだ。それじゃあ、楽しもうね。」
「楽しみましょう!」
その後も夏祭り会場に向かっていると、島民同士で挨拶をする。
1年で1番、一致団結する時だと思う。
「なお!待った?」
「全然、今来たところだよ。それにまだ集合時間の10分前だから、大丈夫。」
「ー綺麗。」
夕焼けのような蜜柑色の甚平、毛先を遊ばせた艶めく栗色の髪。
なおの姿を見て思わず言葉を紡ぐ。
「なおって、幽玄な気配を纏ってるよな。綺麗。」
「ありがとぉ。かずの幽艶な黒髪、海のように深く暖かい紺青色。似合ってるよ。」
「そんなストレートに褒められると照れちゃうよ。」
「かずが、僕のことを先に褒めたんだもん。おあいこでしょ?」
「確かに。」
俺は八重歯をのぞかせて笑う。
「さぁ、屋台巡りをしようよ。長い宵になるねぇ。」
「れっつー?」
「ごー!」
二人で鮮やかな星が浮かぶ夜空に向かい声を上げた。
「うぉー!あのくじ引き見ろよ!ヒーローのフィギュアがあるぞ!」
「欲しいの?」
「欲しい!だって、大人気のヒーローなんだぜ。持ってたらヒーローになれる。」
「ーくじ引きしてみる?」
「おう!」
島内でヒーローにもなれる、なんて最高の響きなんだろう。
「堺さん、くじ引きしたいです!1回で!これ100円!」
「僕も1回引かせてください。」
「はーい。ーかずくん、さっきぶりだね。」
「そうですね!」
堺さんは近所のおばさんたちに『 いい男。』といつも褒められている。
「はい、この箱から紙を1枚選んでね。」
「絶対当てる!ヒーローが欲しい。ヒーローが欲しい。ヒーローが欲しい!」
1枚の紙を選んだ。
「残念、D賞だね。鉛筆2本選んで。」
「ちぇー。」
少し口を尖らせながら鉛筆を見定める。
「ー紺青色と蜜柑色だ。堺さん、これください!」
「はいよ。」
「なお、紺青色の鉛筆あげる。俺のは蜜柑色だ!」
「僕が蜜柑色の鉛筆じゃなくて?」
「そうだ。お互いの着物の色だろ。だから、辛いことがあったらこの鉛筆を走らせたらいい。そうしたら、俺のことを思い出して元気が出るだろ?」
「なるほど。ありがとぉ、かず。」
「いいぜ!」
「僕も引こう。」
なおが1枚の紙を選んだ。
「お、B賞だ。おめでとう。ボールの中から好きなのとっていいよ。」
なおは迷わず選んだ。
「このサッカーボールください。」
「はいよ。」
なおって本当にサッカーが大好きなんだな。
「はい、かず。」
だから、俺は戸惑った。
「え?」
「さっき、なおが僕に鉛筆をくれたでしょ?だからお返しだよ。」
「いい、のか?」
「ん?返報性の原理を利用したかったんじゃないの?」
「それなんだ?」
「分からないのか。」
なおは、一言ぼそっと呟いた。
「とりあえず、あげるね。」
「なお、ありがとう!将来プロサッカー選手になった時、一緒にこれ使おうな!」
「そうだね。僕もなりたい、プロに。」
「なりたい、じゃなくてなるんだ。俺たちなら絶対なれる!」
「絶対ではないよ。」
その言葉を聞いて、そういうことじゃないんだよなと思った。
だから、言い返そうとした。
すると、堺さんに声をかけられた。
「ねぇ、これあげるよ。かき氷無料券。二人で楽しんでおいで。」
俺は目を輝かせて言った。
「嬉しいです!堺さん、ありがとうございます!」
「いいよ、いいよ。」
堺さんの人の良さそうな笑顔が一番星のように明るく見えた。
「なお、行こうぜ!」
「うん。堺さんありがとうございます。」
「いいよ。」
「かき氷、美味そう!」
「そうだね。何味にする?」
「んー、あ!みかん味あるじゃん!」
「そうだよ。僕のおばあちゃんが育てたみかんを使ったシロップだよ。」
「そうなん!?それじゃ、みかん味のかき氷を2つ頼もうぜ。」
「うん。そうしよ。」
「すみません、みかん味のー」
顔を上げると先生が店番をしていた。
「あれ、先生?」
「そうですよ。こんばんわ。」
「こんばんわ。」
「先生、みかん味のかき氷2個ちょうだい!」
「かしこまり!はい、シロップ好きなだけかけていいけんね。」
「ありがと!」
「遠慮せずにかけてね。」
「よっしゃ!たっぷりかけよ!」
「かずさんじゃなくて、なおさんに言ったんよ。いつも遠慮しよるけん。」
「お気になさらず。」
なおは先生との出会いに、さして驚いたような表情を見せなかった。
それどころか、堂々と淡々と言葉を返している。
「いっただきまーす!」
「いただきます。」
手を合わせて唱える。
「美味い!」
「でしょう?僕のおばあちゃんが作ったみかんだもん。」
なおは、笑みを魅せた。
「ごちそうさまでした。」
「かずは、食べるの早いよねぇ。」
「なおは、遅いよな。よく噛んで食べてんだな。偉いな。」
「そう?あ、食べ終わったよ。ごちそうさまでした。」
太陽はまだまだ寝ている。
「花火見に行こうぜ!」
「もうそんな時間かぁ。行こう。」
俺たちは小走りで向かう。
「今年もあそこで見るの?」
「モチのロン!」
「あそこ、人が少なくていいよね。」
「俺が見つけた秘密の場所だからな!」
秘密の場所だけど、なおには教えた。
なんせ、相棒だから。
「着いたー!」
なおの方を見るが、息が上がってない。
普段から走り込みをしてるからだろうな。
俺もだけど。
「もう花火始まってる!」
夜空に色とりどりの花が浮かぶ。
1輪、また1輪と咲いては散る。
「なお、花火って儚いよな。」
「なんでそう思ったの?」
「だってさ、あんなに強い光を放ってるのに、消える時は一瞬だろ?色鮮やかで綺麗なのにな。だからだよ。」
「色は金属元素で決まってるんだよ。」
「なおってさ、いつも正論を振りかざしてるよな。あ、ごめー」
「謝らなくていいよ。僕は正しいことは正確に伝えるべきだと思うから。」
2人の間を気まずい沈黙が包み込む。
「なぁ、花火綺麗だな。」
「うん。綺麗だね。」
俺となおは同じものを見ている。だけど、感じていることは違う。
きっとそうなんだ。
「なお、俺の相棒になってくれてありがとう。これからもよろしくな。」
「こちらこそだよ。ありがとう。」
清涼な風が吹き抜ける。
輝く星々、圧倒的な色彩と鮮やかさを放つ花火に照らされる。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!
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