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春雷  作者: あんず小町
9/9

第2章 潮騒 第1節 サッカー

第2章突入です。

ぜひご一読ください!

「中学校に遅刻するわよー!」

「やばい、フェリーに乗り遅れる。行ってきます!」

「行ってらっしゃい!気を付けてね!」

俺は新品の香りがする制服に袖を通す。

背が伸びるのを見越して大きめのサイズを買った。

だから、今の俺には大きい。


「間に合ったぁ。」

俺は何とかフェリーに乗ることができた。

「おっちゃん、おはよう!」

「おはよう。かず、間に合ってないぞ。」

「え?」

俺は目を白黒させた。

「まだフェリー出発してないじゃん。」

「かずがいないから、待ってたんだよ。1分遅刻だ。」

「えぇー!?おっちゃん、ごめん。」

「いいよ。心配すんな。」

潮の香りが気持ちいい。

「出発するぞー!」

「はーい!」

中学校に入学してから、毎日フェリーに乗っている。

なおが住んでいる島に行かないと中学校が無いからだ。

サッカー部に入れるのが楽しみで仕方がない!


「かず、おはよぉ。」

「なお、おはよう!」

「同じクラスで良かったな。」

「まぁ、1クラスしかないからね。」

「確かにな。」

頬を上に持ち上げる。

「なぁ、サッカー部への入部届け出したか?」

「勿論、出したよ。」

「じゃあ、放課後一緒に行こうぜ!」

「行こー!」


チャイムが放課後の合図を告げる。

「眠いな。」

「夜ちゃんと寝た?」

「いや、サッカー部に入部できるのが楽しみすぎて寝れなかった。」

「遠足を楽しみにしてる小学生みたい。可愛いね。」

「褒めてるのか?それ。」

「勿論。」

「じゃあ、サンキュ。」

「うん。」

褒めてるのか貶してるのか微妙なラインの言葉を投げかけられた。

だが、褒めているらしい。

「よし。どっちが先にグラウンドまで行けるか勝負だ!位置についてよーいどん!」

「急に始めないでよぉ。」

なおが少し口を尖らせる。

「早い者勝ちだ!」

「分かったよ。」


「ふー、着いた。」

「僕の勝ちかな。」

「いーや、俺の勝ちだね。」

「おい、そこの新入部員たち喋るな!キャプテンが話しているだろ!」

「すみません。」

キャプテンの話を無視して、なおと話していた。

だから、俺に非があると思い、謝った。

「おい、なおも謝れよ。」

優しくなおに声をかけた。

すると、なおはキャプテンに話しかけた。

「あの、質問してもいいですか?」

「なんだ?」

「どうして、キャプテンが必要性のない話をしている時に、他の有意義な活動をする時間にあてたらダメなんですか?」

周りの部員たちが、ぽかんとした顔でなおを見つめた。

キャプテンはその様子を見て、柔和な笑みを浮かべて言った。

「必要性のない話じゃないだろう?チームの目標を話しているんだから。」

すると、なおは意味がわからないとでもいいたげな表情を浮かべた。

「チームの目標なんか話し合う必要ありません。目指すのは全国優勝ですよね?」

「ーなお、すまん、もう少し協調性を持ってくれないか?」

「協調性を持つ、持たないの話がしたいんじゃありません。チームの目標は全国優勝ですよね?と尋ねているんです。」

「ー全国大会、なんなら県大会にも出場したことが無い俺達には無理だ。」

「練習を真面目にしないから、練習時間が足りてないからですよね。」

「練習を真面目にしてる。俺のことはなんとでも言えばいい。だが、チームメイトのことまで悪くいうのは許せないぞ。」

このままでは、空気が最悪になってしまう気がした。

だから、この会話を終わらせたかった。

どうすればいいか考えていた。

するとチームメイトがなおに声をかけた。

「なお、勝ちたい気持ちはみんなある。だけどね、全国優勝ができるほど真剣な人なんかこの中には居ないんだ。」

「じゃあ、何のためにサッカーを、しているんですか?」

「ー人によって理由は違うと思うよ。」

「じゃあ、キャプテンはどんな目的を持ってサッカーをしているんですか?」

「ーなんでもいいだろう?俺は答えないよ。」

「どうしてー」

このままだと雰囲気が最悪になってしまう。

思案して、1つ思いついた。

「あの、PKで対決したらいいんじゃないんですか?サッカー部だし。」

「かず、いいねそれ。キャプテン、勝負しましょうよ。」

「ー分かった。」

「え、キャプテンって部内の中で一番強いよな。新入部員なんかに負けるわけないし。」

「それな、結果は目に見えてるのに。」

なおの実力を知らない人が多いのか。

もしくはキャプテンの実力を信じているんだろう。


でも、なおの才能は圧倒的だ。


「キーパーは堀内に頼む。いいよな?」

「勿論です。異論はありません。」

「なお、頑張れよ。応援してるぜ!」

「信頼に応えられるように勝つよ。応援ありがとぉ。」


部長の証言

俺は小学生の頃から必死に練習をしている。

毎日毎日、泣きながらでも頑張った。

苦しくてもその先にある未来に向かって努力をしていた。

当時は1番強かった。負けたことなんかなかった。

俺がPKでシュートを決める確率は83%。

周りの奴らは60%台。

だから、俺は慢心していたんだ。

自分には才能がある特別な人間なんだって。

そんな中、なおは春の嵐のようにやってきた。

忘れもできない、小学校3年生の頃。

0ー5。圧倒的に俺は負けた。

地面を必死で叩きつけた。

3年間一緒に頑張ってきたサッカーボールを睨みつけた。

俺の負けたくないというプライドが邪魔をして、ファウルをとった。

それでもアイツは強かった。

圧倒的な力の差を前にし、俺の体は硬直してしまったんだ。

そこから俺はアイツをライバルだと認め、より1層努力を重ねた。

アイツに負けないために文武両道を掲げて頑張った。

だが、アイツはいつも俺の上を行く。

なぜだなぜだと自分を責め立てた。

そこから数年が経った。

そして今に至る。

あの日自分とした約束を果たす時が来た。

アイツに勝ってやる、と。

チームメイトからの信頼も、俺のプライドも今はどうでもいい。

ただ、勝ちたい。

ひたすらに勝利を願う。


なおの証言

僕は多種多様なことが出来た。

勉強も運動も料理もなんでも。

だけど、 人付き合いだけは苦手だった。

僕の喋り方が恐怖感を与えてしまっているのかなと危惧した。

だから、語尾を伸ばすようにした。

それでも変わらなかった。

人の気持ちを完全に理解することは不可能だ。

寄り添うだけの優しさなんかいらない。

理解したような気持ちになっているだけ。

僕は自分が天に才能が与えられた人間だということは幼稚園生の頃に理解していた。

自分を俯瞰して見つめることが得意だから分かった。

ただ、その事に慢心すると自らを破滅の道へと誘ってしまうと気づいてしまった。

知らぬが仏とはこの事だろう。

気づかなければ、天才だからと驕り高ぶり努力をせず楽に生きれた。

僕はほとんどの事ができる。

だから、楽に生きたかった。

でも、かずと出会ってしまった。

かずは、サッカーが心から大好きなようだ。

僕にはなにかに熱中するという気持ちが分からない。

何が原動力なのか不思議に思った。

だから、かずと仲良くなった。

僕が周りと感性がズレていることも年齢に対し精神の成長が早すぎることも全て受け止めてくれた。

もしかしたら、仲良くなれないかもなと不安な気持ちもあった。

これが僕が初めて主体的に動いたことだった。

そんなかずが信頼してくれている。

その期待に応えなければならない、これが僕の宿命なんだ。


サッカー部堀内の証言。

俺は怖がっていたんよ。

奇妙ななおのこと。

そして、なおの蹴ったサッカーボールのこと。

潜在意識が逃げろと叫びよった。

俺の1部が逃げろと叫んでる。

でも、逃げたくなかったんよな。

なぜかって?俺はキーパーやけん。

ボールを阻止するのが俺の宿命や。

キャプテンの佐々木とは幼なじみだ。

小学校1年生の頃から一緒にサッカーをしていた。

誘ったのは俺だった。

サッカー楽しいけん、一緒にやろやって。

それが間違いだったんかな。

最初の2年は楽しそうだった。

練習メニューがキツくても、将来の俺のためだからと頑張っていた。

でもな、小3の春に佐々木は変わった。

なおとの対決に圧倒的な差で負けたからだろうな。

俺は佐々木が負けたのも、負けて悔しがって目に光を込めているのも初めて見た。

そんな姿見んと思っていた。

佐々木は天才なんや、と思っていた。

俺らの中では頭2つ分くらい飛び出していた。

なのに、負けた。

その日俺は決意したんや。

もう佐々木が泣かないようにする。

俺が全てのボールを止めてやるって。


「それじゃあ、始めるぞ。」

「分かりました。先行後攻ジャンケンしますか?」

「ー俺が先行でいく。」

「分かりました。ルール先に決めときませんか?後から揉めるのも言いがかりつけられるのもごめんなんで。」

「なお、一言多いぞー!」

「ごめん、かず。」

「俺じゃなくて、キャプテンに謝らないと。」

「分かったよぉ。キャプテンごめんなさい。」

なおは、深く頭を下げた。

一瞬、キャプテンがなおを睨んだように見えたが、瞬きすると元に戻っていた。

気のせいだったのかもしれない。

「気にするな。なおの言っていることが正しいんだから。」

「じゃあ、ルールを決めましょう。」

「あぁ。分かった。10回勝負で多く入った方が勝ちでどうだ?分かりやすくていいだろう?」

「そうですね。そうしましょうか。」

「堀内ー!それでいいかー?」

「おうよ!任せてくれてええけんな!」

キャプテンとキーパーの間には確かな友情が見えた。

「じゃあ、俺が先行でいく。なお、いいか?」

「どうぞ。手は抜かないでくださいね。」

「生意気だろ。」

キャプテンが静かに溢れ出した独り言は誰の耳にも届かなかった。


「試合開始。1本目ー!」

「キャプテン頑張れー!」

「お前なら勝てるぞ。」

「先輩、ファイトです。」

キャプテンは人望があるようだ。

「おう。」

突風がグラウンドを走った。

「ナイッシュー!」

「さすがです、キャプテン!」

そこから容易く8本目まで入った。

「そろそろかな。」

「何がそろそろなんだ?」

「見てたら分かるよぉ。」

なおが紡いだ言葉の先は何を示しているんだろうか。

そう考えていると、カキーンと大きな音が鳴った。

「惜しいです!」

「次1本決めよー!」

どうやら、ゴールの縁にあたって弾いたようだ。

「次決めるぞー!」

そう放った言葉の後に、緩やかなスピードでボールを蹴り出した。

「ミスった。」

キャプテンが静か言葉を紡いだ。

「ナイッシュー!」

「9本も入ったぞ。過去最高じゃね?」

なんとか入ったようだ。

だけどー、

「なぁ、堀内。」

「ナイッシュー、佐々木。どうしたん?」

「お前今、手抜いただろ。」

「はー?」

「いや、俺は佐々木の為を思って。」

「俺はそんなの望んでない。正々堂々勝負したかったんだ。」

「ーごめん。」

グラウンドには木枯らしのような冷たい風が吹いている気がした。

冷たい沈黙を破ったのはなおだった。

「あの、僕10回全て入るのでお気になさらず。別に構いませんよ。」

「はぁ?」

俺以外のチームメイト一同が声を揃えた。

「俺、入れれるので。」

そう投げかけた言葉の先はキャプテンとキーパーが居た。

2人とも自らの拳を強く握りしめていた。

「分かった。じゃあ、やり直さない。」

「キャプテン!?」

「なおがいいって言ってるんだ。尊重しよう。」

「ー。」

チームメイトは何か言いたげだったが、言葉を飲み込んだ。

「じゃあ、行きますよぉ。」

そこからは瞬きすら許されない空間だった。

ボールがなおの意のまま進んでいく。

そして、全てゴールに入った。

キャプテンもキーパーも悔しそうな表情を浮かべているだろうと思った。

だが、地面に寝転び笑い声を天に届けていた。

あぁ、なるほどなと気づいた。

なおの事をやっぱりすごいなと認めたんだろう。改めて。

「なお、俺の惨敗だ。問に答えるよ。俺はな、お前に勝ちたかったんだ。ずっと。」

「僕にですか?」

なおはあざとい表情でキャプテンに尋ねる。

「俺がお前と初めて勝負した時からずっと。ライバルだと思っている。」

「僕は先輩をライバルだと思っていません。試合したことも覚えていないです。すみません。」

キャプテンはキョトンとした顔を浮かべると大笑いしだした。

「あぁ、そうだ。お前はそういう奴だよな。なお、改めてこれからよろしくな。全国目指そうぜ。」

「はい。よろしくお願いします。」

キャプテンとキーパーの顔は春のような優しい笑顔が浮かんでいた。

チームメイトは曇天のような表情を浮かべていた。

最後まで読んでくださりありがとうございます!

締切に間に合わないかもしれないー。

今からあと約6万文字。

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