第1章 春 第3節 漁師
第3節です。
最近暑くなってきた気がする。
「おーい、かず。船に乗るわよー!」
母の芯のある声が聞こえてくる。
「はーい。」
心の中で大きなため息を吐き出す。
めんどくさい。その一心だ。
「ねぇ、今日も漁に行かなきゃダメ?」
「勿論。あなたは将来、漁師としての仕事を継いでもらうからね。」
俺の両親は漁師だ。
都会では、漁師は少なく重宝されるらしい。
だが、ここは瀬戸内海に浮かぶ小さな島。
漁師だらけだ。
「早く来なさい。置いていくわよ。」
じゃあ、置いていってくれよと思ったが、渋々船に向かう。
「うわぁ。海に宝石が散りばめられているみたい。」
瀬戸内海は何度観ても心を動かしてくれる。
温暖な気候、自然豊かな大地、寛大な心を持つ海。
「ふふ。そうよねぇ。色とりどりのお魚さんが宝石に見えるよねぇ。」
「うん。綺麗だね!」
「でしょう。お仕事、継ぎたくなった?」
「ーそれは嫌だ。」
「やっぱり、ダメかぁ。」
そういうと母は大きなため息を吐く。
いつもの会話を終え、新しい会話を切り出そうとした時、尋ねられた。
「ねぇ、なんで。」
「え。」
初めて理由を尋ねられ、内心冷や汗をかく。
漁師なんてめんどくさい。朝も夕方も冷えるし、船酔いもするし、嫌。
そんな事をいえば怒られるんだろうなと分かる。
だから、こう答えた。
「俺、プロサッカー選手になりたいんよ。だから、漁師にはなりたくない。」
そう答えると、母は瀬戸内海の綺麗な光を吸収した目を大きく見開いた。
「そう、だったの。」
「でもー。ー分かった。応援するけんね。ただ、この島にサッカーチームはあるけど。合同でしかない。」
「この島からでたら、問題を起こしたと近所の人に思われちゃう。どうしよう。」
そう言っている母と目が合うと、母は慌てた様子で言った。
「ごめんね、心配させること言って。今度、体験会に行こうか。」
「うん。」
正直、怠惰な事から逃避するためだけの言い訳だった。
だから、すんなり通るとは思わなかった。
ただ、この島からは出れないのかもしれないという閉塞感が俺を締め付けた。
その日の漁は楽しかった。
気持ちが晴れやかになると清々しい気持ちだ。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回、サッカーボール!




