救えなかった命と、聖女の裁き
朝の光が、王城の庭に差し込む。
でも、私の心は重かった。
昨夜の市場の件。
止められなかった命が、あった。
小さな子どもだ。
加害者に押され、石にぶつかり、泣き叫ぶ前に倒れた。
駆けつけた時には、もう動かなかった。
「……駄目でしたか」
団長が、隣で呟く。
声に、痛みが混じっている。
「……はい」
私は拳を握る。
でも、怒りではない。
悔しさでも、悲しみでも、ない。
ただ、事実。
会議室に向かう。
王城は、今日も静かで、重苦しい。
法務官が、静かに待っていた。
「聖女殿、昨日の件の報告です」
記録が置かれる。
殴った回数、加害者の状態、被害者の状況。
「……子どもが」
声を震わせる。
でも、拳は揺らがない。
「私のせいです」
全員が、息を呑む。
法務官でさえ、言葉を失う。
「止められなかった。
救えなかった」
一拍置く。
「私は、裁かれます」
王の代理人が、目を細める。
「……貴女は、責任を負うと言いましたね」
「ええ」
視線を床に落とす。
拳を開く。
空いた掌に、悔恨は載らない。
ただ、責任だけがある。
「許しを求めません」
声を低く、しかし確かに。
「私のやり方は、完璧ではありません。
でも、後悔しないために殴ります」
沈黙。
静まり返る会議室。
「……処分は、どうしますか」
法務官の問い。
「記録して、公開してください」
一つひとつ、条文を超えた現実が、ここに残る。
「救えなかった命は、事実として残ります」
一呼吸置く。
「でも、次は守る」
拳を握り直す。
その手は、震えていない。
「これが、私の裁きです」
代理人が、ゆっくり頷く。
「……民が、見守る限り、
聖女の裁きは続く」
窓の外。
街の人々が、日常を取り戻そうと動いている。
私は、静かに微笑んだ。
守れなかった命が、心に影を落とす。
でも、それを糧に、拳を握るしかない。
暴力は万能じゃない。
でも、放置すれば、もっと多くの命が消える。
だから、私は裁く。
自分の拳で。
自分のルールで。
聖女として、
守るための暴力を、
私は選ぶ――誰にも決めさせずに。




