拳の使い方は、私が決める
王城からの呼び出しは、予想より早かった。
しかも一人ではない。
軍部、法務官、王の代理人。
要するに。
「……正式に縛りに来ましたね」
廊下で団長が、小さく言う。
「ええ」
私は、扉の前で立ち止まった。
「でも」
拳を軽く握る。
「今日は、縛られるつもりはありません」
会議室は、重苦しかった。
「聖女殿」
法務官が、書類を机に置く。
「貴女の行動を、条文化します」
「条文化?」
「はい。
いつ、どこで、どの程度の力を使っていいか」
私は、即座に首を振った。
「無理です」
ざわつき。
「無理、とは?」
「現場は、条文通りに動きません」
「それでは、統制が――」
「命は、統制できません」
言い切る。
「死にかけている人は、
規則を待ってくれない」
軍部の男が、苛立った声を出す。
「だからこそ、管理が必要なのだ!」
「いいえ」
一歩、前に出る。
「だからこそ、裁量が必要なんです」
王の代理人が、じっと私を見る。
「……では、どうする」
私は、息を吸った。
「私が、責任を取ります」
沈黙。
「殴った結果」
「止められなかった結果」
「救えなかった結果」
一つずつ、言葉を置く。
「全部、私が引き受ける」
法務官が、眉をひそめる。
「それでは、聖女殿が――」
「ええ」
頷く。
「裁かれる立場になります」
空気が、張り詰める。
「力を持つ者が、
裁かれない方が、異常です」
団長が、息を呑むのが分かった。
「私は、無敵じゃない」
「間違える」
「失敗する」
拳を、机の上に置く。
「だから」
視線を上げる。
「拳の使い方は、
私が決めて、
私が裁かれます」
長い沈黙。
やがて、王の代理人が口を開いた。
「……前例がない」
「作りましょう」
即答。
「私が、前例になります」
軍部が、諦めたように息を吐く。
「……厄介な聖女だ」
「よく言われます」
少しだけ、口角を上げた。
「条件がある」
代理人が、低く言う。
「貴女の行動は、
必ず記録される」
「構いません」
「評価も、批判も、
すべて公開される」
「それでいい」
私は、拳を開いた。
「隠されるより、
ずっと健全です」
その瞬間。
空気が、変わった。
完全な理解じゃない。
でも。
支配でも、利用でもない。
初めての、対等。
会議が終わった後。
「……怖くなかったんですか」
団長が、低く聞く。
「怖いですよ」
正直に答える。
「でも」
拳を見る。
「誰かに決められるより、
自分で決めて殴る方が、
ずっと、怖さに責任が持てます」
廊下の窓から、街が見える。
まだ、不安定だ。
でも。
拳の行き先は、
もう、他人が決めるものじゃない。




