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聖女たるもの見過ごす訳には参りません  作者: 櫻木サヱ
聖女が“自分のやり方”を国に突きつける

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秩序と暴力の境界線

会議室を出ると、外の空気が重く感じられた。


 街は静かだが、戦争の残響が漂う。


「……聖女様、向こうは納得してくれるでしょうか」


 団長が、後ろから声をかける。


「……たぶん、いいえ」


 私は、拳を軽く握る。


「でも、見せるしかありません」


 昼。


 王城の広場。


 軍部の監視の下、演習が始まる。


 部隊が前に押し出される。


「……後方に、聖女殿が待機」


 司令官が、声を張る。


「目立つな」


 私は、淡々と答える。


 しかし、視線は私に集中する。


 敵役の訓練兵が、隊列を乱す。


 前列の兵が、押される。


「……行きます」


 私は、手袋をはめる。


 拳を振るう。


 敵を倒すのではない。


 進軍を止める。


 兵を守る。


 負傷者が、後方に下がる。


 敵を制圧するのではなく、戦場の流れを止める。


 一撃ごとに、秩序を作る。


 観察していた軍部の表情が変わる。


「……なるほど」


 誰かが、低く呟く。


 拳は、戦力でもあり、秩序でもある。


 強制でも、象徴でもない。


 私は、ただ。


 被害を最小限に抑えるために、動く。


 昼が過ぎ、演習は終わった。


 汗と土埃が、衣服を重くする。


「……聖女殿」


 司令官が、近づく。


「理解しました」


「……感謝、します」


 私は、無言で拳を外す。


「見せるだけで、分かるんですね」


 団長が、苦笑する。


「理解させるのではなく」


 私は、拳を握り直す。


「“見せる”だけです」


 静かに。


 拳が、秩序を示す。


 そして、民と兵は知る。


 暴力は、制御されるためではなく、

 守るためにあると。


 王城は、まだ完全には理解できない。


 でも、聖女は示した。


 拳が、象徴でも戦力でもなく、守るための道具であることを。


 夜。


 私は、陣地の端で、拳を見つめる。


「……戦力と秩序、両立できました」


 団長が、頷く。


「このやり方なら、誰も犠牲にせず、戦えます」


 拳を、静かに開く。


「でも」


 微かな笑みを浮かべる。


「私のやり方は、便利ではありません」


 それでも。


 誰かの盾として、

 殴る聖女は、確かに存在する。

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