聖女の提案、国を揺るがす
戦の熱がまだ街に残る中、王城の会議室は異様な緊張に包まれていた。
私の足音だけが、静かに響く。
「……聖女殿、お疲れ様です」
騎士団長の声も、いつもより低い。
「ありがとうございます」
机の上には、昨夜の戦闘報告と共に、軍部の提案書が山積みになっていた。
隣国の使者も、気配を消すように座っている。
「さて」
私は、書類の山を一瞥した。
「国としては、私の拳をもっと戦力として使いたい、と」
使者が、微笑む。
「その通りです」
「でも」
一拍。
「私は、今のやり方でやります」
会議室に沈黙が落ちる。
「……意味が分かりませんね」
軍部の代表が、眉をひそめる。
「戦果を拡大できるのに」
「ええ」
私は、声を低くする。
「でも、それは民を“盾”にすることになります」
視線が、ざわつく。
「聖女殿……」
王城の高官も、顔をしかめた。
「私は、誰かを犠牲にして勝利するつもりはありません」
「命は、数ではありません」
拳を見下ろす。
「力は、使い方で善にも悪にもなります」
全員の目が、私に吸い寄せられる。
「だから、提案します」
一歩前に出る。
「戦力としてだけでなく、守る側として、
私の力を組み込みましょう」
沈黙。
「……具体的には?」
軍部が、興味と不安を同時に隠せずに訊く。
「前線で英雄として振る舞うのではなく」
「後方で、被害を最小限に抑えるために動きます」
一拍。
「突破できない部隊を支え、負傷者を守り、敵を封じる」
軍部の誰かが、ざわつく。
「……それでは、戦果は、今までより落ちるのでは?」
「落ちません」
私は、拳を握る。
「最前線を押す兵が、安心して戦えます」
「勝利も、犠牲も、両立できます」
会議室の空気が変わった。
戦略家たちは、計算を始める。
騎士団長が、小さく呟く。
「……聖女殿、やはり只者ではありません」
私は、微笑まなかった。
「……ただ、やるだけです」
窓の外。
街は、まだ戦の爪痕を残している。
でも。
守れる命がある限り、
私は、拳を握る。
そして。
王城も、次第に理解する。
聖女は、戦力としても、
象徴としても、
扱い切れない存在だ、と。




