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陰キャな俺の初恋相手の妹が、学年一の美少女になっていた。それでも、俺からしたらそれだけだ。  作者: 白浜 海
文化祭編

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夕方の生徒会室

 屋上での彩花との『二人だけの時間』を終え、俺たちは賑わう校舎へと戻ってきた。


「悠くん、付き合ってくれてありがとう! 私、すごく楽しかった!」


「ああ。お化け屋敷で腕を締め上げられた時はどうなるかと思ったけどな」


「もうっ、それは不可抗力でしょ!」


 クラスの最終集計へと向かう彩花と手を振り合って別れた俺は、約束通り生徒会室の後片付けと見回りを手伝うため、最上階の生徒会室へと足を運んだ。


 ドアを叩いて中に入ると、そこには昨夜の絶望的な空気など微塵もない、穏やかで温かい空間が広がっていた。


「あ、翡翠くん! お疲れ様!」


 パイプ椅子に座り、お茶を飲んでいた霧島先輩が満足そうな笑みを浮かべて迎えてくれた。デスクの上には、順調に進行している本日のスケジュール表と見回り報告が綺麗に整理されている。


「お疲れ様です、霧島先輩。菜奈さんは……?」


「菜奈なら、体育館の音響スタッフさんたちにお礼を言いに行って……あ、戻ってきたみたいね」


 バタバタと廊下を走ってくる足音が聞こえたかと思うと、勢いよくドアが開いた。


「ただいま〜〜〜っ! 悠くん! 体育館の軽音部と演劇部の人たち、みんな『最高のステージだった!』って泣いて喜んでたよ〜〜っ!」


 飛び込んできた菜奈さんは、両手を広げて大はしゃぎだった。

 昨夜の涙で腫れていた目はすっかり元通りになり、早朝からの設営で疲労はあるはずなのに、その表情は太陽のように晴れやかだ。


「それは良かったです。桜庭先生と業者さんにも感謝ですね」


「うん! もう先生たちにはいくら感謝しても足りないよ! ……でもね、悠くん」


 菜奈さんは急に足を止めると、いたずらっぽく、けれどどこか照れくさそうに目元を緩めた。


「一番感謝してるのは、やっぱり悠くだよ。悠くんが昨夜、諦めないで動いてくれたから……今日のこの最高の文化祭があるんだもん」


「俺はただ、自分の平穏な生活のために少し動いただけですから……」


「ふふ、相変わらず素直じゃないなぁ〜! そんな悠くんには、生徒会長特製のハグをプレゼントしちゃおうかな〜!?」


「結構です。本気で遠慮します」


「冷たいっ! 照れちゃって可愛い〜!」


 いつものようにポンコツで、妹思いで、どこか残念な菜奈さん。

 だが、そのやり取りを見つめる霧島先輩の目は優しかった。


「それじゃあ二人とも、私は本部テントの撤収指示を出してくるわね。後夜祭の進行、この調子でいきましょう」


「は〜い! 凛ちゃんお願い〜!」


 霧島先輩が退室し、生徒会室には再び俺と菜奈さんの二人だけが残された。


 西日が差し込み始める室内。

外からは、もうすぐ始まるフィナーレに向けた熱気がかすかに漏れ聞こえてくる。


「……ふぅ」


 菜奈さんは深く息を吐くと、自分のデスクの椅子にゆっくりと腰掛けた。

 そして、ふと自分の右手を見つめる。


「ねえ、悠くん」


「はい?」


「私ね……昨日の夜、彩花に怒られて、悠くに助けてもらって、やっと気づいたんだ」


 菜奈さんの声は静かだった。

完璧な生徒会長の仮面でも、ポンコツなお姉ちゃんの戯けでもない、素の『柏村菜奈』の声。


「一人で全部抱え込んで『完璧な生徒会長』を演じることが、みんなのためになると思ってた。でも……それはただの私の我儘で、周りのみんなを信じてなかっただけなんだよね」


「……菜奈さん」


「今日ね、いろんな人が『会長、これ手伝います!』って声をかけてくれたの。私、すごく嬉しかった。……人に頼るのって、悪いことじゃないんだね」


 菜奈さんは窓の外の茜空を見つめながら、優しく目を細めた。


「悠くんが教えてくれたんだよ。弱音を吐いてもいいんだって。頼ってもいいんだって」


 そう言ってこちらを振り返った菜奈さんの顔は、今まで見たどんな笑顔よりも綺麗で、柄にもなく胸がキュッと締め付けられるほど魅力的だった。


(……やばいな)


 屋上で彩花が言っていた言葉が、頭をよぎる。

『お姉ちゃんってば、一度夢中になるとすごく素直で可愛いから』


完璧な仮面が剥がれ落ちたあとの菜奈さんは、思っていた以上に危険だった。

無自覚に距離を詰め、まっすぐな瞳で感謝を伝えてくる。こんなの、並の男子なら一発でノックアウトされているところだ。


「……別に、俺は大したことはしてないよ。菜奈さんが今まで頑張ってきたから、周りも動いたんだから」


「ううん、悠くんのおかげだよ」


 菜奈さんは立ち上がると、すっと俺の目の前まで歩み寄ってきた。

ふわっと、彼女特有の甘く優しい香りが漂う。


「これからも……私の一番近くで、見守っててくれる?」


「……補佐ですから。最後まで付き合いますよ」


「ふふっ、素直じゃないけど、そうやって引き受けてくれるところが……好きだな〜」


 菜奈さんは満足そうに微笑むと、いたずらっぽく小首を傾げた。


 昨夜のトラブルを乗り越え、より一層絆を深めた生徒会。

完璧な仮面を捨てて素直になった菜奈さんとの絆を深めながら、文化祭はいよいよフィナーレの後夜祭へと向かっていくのだった。


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