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陰キャな俺の初恋相手の妹が、学年一の美少女になっていた。それでも、俺からしたらそれだけだ。  作者: 白浜 海
文化祭編

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33/52

知らない生徒会長

 文化祭準備期間が始まって、3日が経過した。


 1年5組の教室は、放課後になるとまるで戦場のようになっていた。

 女子たちが中心となって喫茶店の装飾やメニュー表を作成し、男子の一部は大道具として机や椅子の配置変更、看板の作成に追われていた。


「悠くん、そこもう少し右!ううん、行き過ぎ! 戻して!」


「……こうか?」


「そう! バッチリ!」


 巨大なダンボールを繋ぎ合わせ、ガムテープとカッターを駆使して組み上げた『クラシックカフェ 5組』の特大看板。学校の規則で釘や危険な工具は使えないため、強度を出すために骨組みのダンボールを二重構造にする作業を、俺は黙々とこなしていた。


 手伝いとして名乗りを上げた俺だったが、カッターでの切り出しやダンボール工作のような地味な裏方作業は得意分野だ。余計な接客スマイルも要らないし、黙々と手を動かしていればいい。


「ふぅ……これで看板のベースは完成だな」


「悠くんすごーい! 手際良すぎない? 職人さんになれるよ!」


「職人は言い過ぎだ。丁寧にカッターを入れてガムテープで補強しただけだ」


 作業を終えて一息つくと、彩花がタオルと冷えたお茶のペットボトルを差し出してきた。


「はい、お疲れ様。悠くんがいてくれて本当に助かっちゃった」


「……どうも」


 自然な流れでタオルを受け取り、汗を拭く。

 周りの男子たちが「柏村さんにドリンクもらえるとか羨ましすぎるだろ……」「あの2人ってあんな距離だったか?」とヒソヒソ囁いているのが聞こえるが、聞こえないフリだ。日陰者の生存戦略である。


「ねえ悠くん。今日、生徒会の方はお休み?」


「あぁ。霧島先輩から『今日は生徒会室の書類整理だけだから、翡翠くんはクラスの準備に専念してくれ』って連絡があった」


「そっか!」


 彩花は嬉しそうに頬を緩め、俺の隣にすっと腰掛けた。


「ねえ、シフトのことなんだけどさ」


「ん?」


「私、午後の時間帯を『休憩』にして希望出しておいたから。悠くんもそこに合わせて提出してね?」


「……相変わらず仕事が早いな」


「当たり前でしょ。悠くんと一緒に校内回るの、すっごく楽しみにしてるんだから」


 屈託のない笑顔で言われ、俺は生返事を返しながらお茶を飲み干した。

 土曜日の水族館といい、最近の彩花は好意を隠そうともしない。嫌な気は全くしないのだが、不意打ちを決められると、どうしてもドギマギしてしまうのが目下の悩みになってきたな……。


 ——と、そんな平和な時間が過ぎていた、まさにその時だ。


「失礼するわね——」


 ガラリと教室の後ろのドアが開き、凛とした声が響いた。

 教室中の視線が一斉にそちらへと向かう。


 立っていたのは、菜奈さんであった。


「あ、生徒会長だ!」


「マジで美人だな……」


 クラスの連中から感嘆の声が漏れる。

 いつもの隙がない完璧な立ち姿、そして凛とした佇まい。全校生徒が憧れる『カリスマ生徒会長』そのものの姿だ。


(……いや、どちら様ですか??)


 俺の知っている『お姉ちゃんを助けてぇ!』と叫んでいたポンコツ生徒会長とは完全に別人だ。周りから『生徒会長』と崇められている人物と、俺の頭の中の菜奈さんの像がまるで一致しない。


「1年5組の進捗状況の確認に来たわ。実行委員は……彩花ね」


「うん、お姉ちゃん。看板のベースが終わったところだよ」


「そう、順調みたいね。……あ、悠くんもちゃんと手伝っているみたいね」


 菜奈さんは俺の方を向くと、上品かつ優雅にクスリと微笑んでみせた。


「明日からは生徒会室の方も本格的に忙しくなるから、覚悟しておいてね?」


「……お手柔らかにお願いします」


 俺は淡々と返答した。

 いや、もう本当に猫被りすぎだろ……。あまりの演技力とギャップに脳が追いつかず、俺は機械的な生返事を返すのが精一杯だった。


 クラスの連中も「生徒会長すてきすぎ……」と感心した様子で見つめている。完全に騙されている。


 ……だが、散らばったダンボールの端材を片付けながら、俺はふと手を止めた。


 ほんの僅かな違和感だった。


 クラスメイトの問いかけに応じる直前、菜奈さんの返答にほんの「一瞬」だけ言葉が詰まる間があった。

 ほんの少しだけ、視線が空中を泳ぎ、すぐにいつもの完璧な生徒会長の顔に戻る。


 周りのクラスメイトからすれば、言葉を選んでいる丁寧な態度にしか見えないだろう。

 だが、俺の知っている菜奈さんは、俺の前では情けないくらい感情を丸出しにする人だ。だからこそ、その「完璧すぎる立ち振る舞い」の隙間に見えたほんの僅かな言葉の遅れと視線の揺らぎに、言いようのない引っかかりを覚えた。


(……気のせいか?)


 連日の文化祭準備で多少疲れているだけかもしれないし、全校生徒をまとめる立場としての緊張感かもしれない。

 深く追求するのも野暮だと思い、俺は「考えすぎか」と自分に言い聞かせて作業に戻った。


「悠くん? どうしたの、お姉ちゃんの後ろ姿ばっかり見て」


 振り返ると、彩花が少し不安そうな、そして嫉妬の混ざったジト目で俺を見上げていた。


「いや……別に何でもない」


「もう、浮気はダメだからね?」


「浮気って何だよ……」


 呆れつつも、俺は切り揃えたダンボールを教室の隅へ片付けて今日は帰宅するのだった。


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