幼馴染とのお花見
いつもより少し長めです!
彩花に手を引かれたまま、俺は3年ぶりの景色を眺めていた。
だが、たった3年程度で大きな変化がある訳もなく、ただ懐かしい景色を見て1人感慨に耽っていると、気が付けば河川敷へと辿り着いていた。
川沿いには満開の桜並木が続き、花見を楽しんでいる家族連れやカップルの姿がちらほらと見える。俺が引っ越す前も、俺の家族と彩花の家族で一緒にここへ花見に来たものだ。
「もうここまで来ると分かったよね?」
「あぁ。懐かしいな」
「だね! 覚えてる? 私と悠くんとお姉ちゃんと楓ちゃんで川に入って、お母さんたちにすごく怒られたの」
楓ちゃんというのは俺の妹、翡翠楓のことだ。俺より2つ年下なので、今は中学2年生になる。
確かあの時は、俺と彩花が小学4年生の頃だったか。川に向かって水切りをして遊んでいたら「目の前に魚がいる!」と盛り上がり、4人で浅瀬に入っていったのだ。あの時の母親たちの怒りようは今思い出しても恐ろしい。
「覚えてるよ。あの時の母さんたちは本気で怖かった……」
「ふふ。本当にね」
「懐かしいなぁ」
「うん。楓ちゃんは、兄離れはそろそろできたの?」
「俺は、彩花の奈菜さんに対する苦労がよく分かるよ……」
「あっ……まだなんだね……」
俺の妹である楓は、どう控えめに見ても重度のブラコンなのだ。
兄としてはそろそろ自立してほしいものなのだが……。ちなみにどれくらい重症かと言うと、中学2年生になった今でも夜中に俺の布団へ忍び込んで一緒の寝床に入ろうとしてくるレベルである。朝起きたら横に楓がいる、なんてことも日常茶飯事だ。
実の妹にやましい気持ちなど一切ないが、あればかりはいい加減やめてほしいものである。
「ここらへんでいいかな?」
「そうだな。周りにも人がいないし」
俺が同意すると、彩花はトートバッグからレジャーシートを取り出し、桜の木の下に手際よく敷いた。遊びに行くにしては大きめのバッグを抱えていた理由が、これで解明した。
「悠くん、お腹空いてる?」
「まぁ、空いてなくもない」
「それじゃあ、少し早いけどお昼にしよっか!」
そう言って彩花は、バッグの底から二段重ねのお弁当箱を取り出した。まさかお弁当まで用意してくれていたとは……。これは後で何かちゃんとお返しをしなければ申し訳ない。
「これ、彩花の手作りなのか?」
「うん! 悠くんの口に合えばいいんだけど……」
彩花は少し不安そうに言うが、そのお弁当は一目見ただけで『絶対に美味い』と分かる出来栄えだった。
卵焼き、ウインナー、唐揚げといった定番のおかずが、プチトマトやサニーレタスで色鮮やかに盛り付けられている。それとは別におにぎりも包んでくれており、これは本格的にお礼を考えなければならないレベルだ。
「すごいな……」
「ふ、普通だよ! ほら、食べてみて」
「いただきます」
俺は手を合わせてから、彩花に渡された割り箸で唐揚げを一つ摘み、口に運ぶ。
お弁当なので揚げたてのサクサク感こそないが、お弁当ならではのしっとりとした旨味があり、味付けも少し濃いめで俺の好みにドンピシャだった。
「すげぇ美味い」
「ほんと!?」
「ここで嘘をついても仕方ないだろ?」
「良かった……悠くんも男の子だから、少し味を濃いめにしてみたんだけど大丈夫だった?」
「むしろこれくらいが一番好きだ。ありがとうな」
「えへへ……」
彩花は照れくさそうに頬を緩めながら、自分も卵焼きを口に運んでいた。
それを見て俺も卵焼きを食べてみたのだが、絶妙な塩加減とほんのりとした甘みが広がった。塩と砂糖の比率が完璧すぎる。
彩花が作ってくれたおにぎりも、具材が塩・鮭・昆布・明太子の4種類も用意されており、普段は小食な俺もついつい手を伸ばしすぎてしまった。
「……腹いっぱいだ」
「まさか全部食べちゃうなんてね。多めに作っておいて良かった」
「美味かったからな」
「ふふ。お粗末さまでした」
美味い飯で腹が満たされ、春のポカポカとした陽気と心地よい風が通り抜ける。ここで横になって寝ることができたら、どれほど幸せだろうか。
もし今ここにいるのが俺と彩花だけでなく他の友人も混ざっていたなら、俺は間違いなく爆睡していただろう。だが、ここで俺が寝てしまっては彩信を1人にさせてしまうので、必死に眠気を耐える。
「気持ちがいいねぇ」
「あぁ。これぞ花見の醍醐味って感じだな」
「まさか、また悠くんとお花見をする日が来るなんてね」
「だなぁ。引っ越したと言ってもそこまで遠くへ行ったわけじゃないけど……まさか彩花と同じ高校になるなんて思わなかったぞ」
「本当にね。でも、私は悠くんとまた同じ学校に通えて嬉しいよ?」
「そうだな」
それからは、高校で部活に入るのかという話や、俺が教室で1人でいることに対する彩花なりの文句を聞かされたり、会えなかった3年間の近況報告などを語り合った。そうして過ごしているうちに、気が付けばあたりは橙色に染まり始めていた。
「夕日と桜もいいものだな」
「うん。お昼とは違った良さがあるよね」
「だな。そろそろ帰るか?」
「そうだね」
俺と彩花はレジャーシートから立ち上がり、撤収の準備を始める。と言ってもシートを畳み、彩花が持ってきてくれていたお菓子のゴミをまとめるくらいだ。至れり尽くせりの花見であった。
「何から何まで、今日はありがとな」
「いいよ。お花見がしたかったのは私だしね!」
「俺も楽しかったから、今度なにかお礼をさせてくれ」
「別に気にしなくていいのに」
「俺が気にするんだよ」
「うーん……それなら、また今度一緒にお出かけして!」
「そんなことでいいのか?」
「うん! それがいい!」
「そういうことなら」
「やったぁ!」
彩花は小さく跳ねながら、ニコニコと笑顔を咲かせた。
俺とお出かけするのがそんなに嬉しいのだろうか。俺自身にそんな価値があるとは思えないが、彩花が嬉しそうにしているならそれでいいか。それに、今日のおもてなしに対する対価としては安いものだ。
「そういえば、なんで『お花見』だったんだ?」
「それはねぇ……悠くんと久しぶりに、いっぱいお話がしたかったから!」
「!?」
まさかそんなストレートな理由だったとは。
全く予想していなかった返答に、俺は思わず面食らってしまった。奈菜さんや楓だけでなく、彩花も3年前から全然変わっていないんだな。
もしかしたら彩花から見れば、俺自身も大して変わっていないように映っているのかもしれない。景色だけでなく人間も、たった3年くらいじゃそう簡単に変わらないのかもしれないな。
そんな青くさい思考を巡らせながら、俺は彩花と並んで帰路に就くのだった。
どうも! 白浜海です!
彩花ちゃん可愛いですよね…
執筆しながら微笑ましくなって気付けば普段よりかなり長めになってました笑
読んでくださった読者様もほのぼのして頂ければ、なろう作家冥利に尽きます!笑




