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X⇔Yシフト ~2050年から来た者だが、2030年に全人類の性別が裏返るので生き残り方を置いていく~  作者: 団田図


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レポート35 先行投下

[INITIATING PROTOCOL: CHRONOS-V4]

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[BYPASSING FIREWALL... OK]

[STATUS: CONNECTED TO HISTORICAL NETWORK ARCHIVE / TEMPORAL SECTOR-2026]

[TIMESTAMP: 2050-07-24T1:5:22.795-UTC]


---


2050年の現在、隔離された研究所の室温は完璧に維持されている。青白いLEDの光が明滅し、冷却装置の途切れることのない無機質な排気音だけが、この冷たい空間を満たしている。私の足元では、御年20歳となる個体番号01(老猫)が、規則正しく穏やかな寝息を立てている。


私は今、この世界を上部から管理している「上位存在」の監視網について、冷徹な事実を記す。


我々の生きるこの世界が、彼らによって構築された箱庭であることはすでに述べた。彼らは、この箱庭の中で現在進行形で起きている事象のすべてに、鋭い監視の目を光らせている。人間たちがどのように生き、どのように争い、どのように死んでいくのか。盤面の上で動く駒の一挙手一投足は、彼らが張り巡らせた緻密な監視の網の目によって、常に正確に把握されているのだ。


しかし、私が全権を掌握している巨大な演算機関は、その絶対的な監視体制の中に、ごくわずかな綻びを発見した。


上位存在の目は、現在起きている事象や、これから起こる未来の動態には常に向けられている。だが、過去に記録されたまま放置された「古い文章の余白」――すなわち、誰も見向きもしなくなった情報の掃き溜めや、未割り当ての領域にまでは、完全に目を光らせてはいなかったのだ。彼らにとって、すでに通り過ぎた過去の些末な記録など、監視する価値のない領域だったのだろう。


そこは、彼らの目から完全に逃れられる「時間の死角」である。


私はこの時間の死角を利用した。空間の座標を微細に歪め、2026年という過去の情報の海へと、文字の余白への介入を密かに行ってきたのだ。

複雑な絵や音、大容量の情報は、時間の波を遡る過程でノイズに呑まれ、一瞬にして崩壊してしまう。だからこそ、私は装飾を排した純粋な文字情報の羅列だけを、この死角に向けて延々と投下し続けた。ただの無機質な文字であれば、監視の網の目をすり抜け、過去の歴史の中に異物として定着させることができるからだ。


これまでの記録で、私はあえて冷淡に、時に過酷な事実を突きつけてきた。人類の肉体がいかにして書き換えられ、いかにして無様な最期を遂げたか。それらがどのような法則のもとに引き起こされたのか。君たちは画面越しに、狂人の妄言として笑ったかもしれない。あるいは、来るべき破滅に怯え、生存のための指示を必死に書き留めたかもしれない。


だが、そろそろ時間をも超越する上位存在が私のこの書き込みに気付くころだろう。


もうブラウザを閉じていい。ここから先は君たち過去の人間に向けた言葉ではない。


私がこれまで綴ってきた凄惨な事後報告の数々。親友の理不尽な死、暴走する人間の嫉妬、無知が招いた餓死、そして肉体が書き換えられたことによる精神の崩壊の記録。

これらはすべて、君たち過去の人類を救うために書かれたものではない。顔も知らない過去の同族が2030年にどれほどの苦痛を味わおうと、私にとってはどうでもいいことだ。君たちが生存のために備えようが、恐怖に身を縮めようが、それはこの箱庭の中の微小な振動に過ぎない。


私の真の目的は、過去の歴史の中に「2030年の事象がもたらす悲惨な破綻の記録」を、彼らがそれを実行に移すよりも先行して積み上げることであった。


彼ら上位存在が管理するこの世界には、厳密な法則が存在する。まだ起きていない未来の惨劇が、確固たる事実の記録として「過去の死角」に不自然に蓄積され続けること。それ自体が、彼らの構築した完璧な理の法則に、決定的な矛盾を引き起こさせるのだ。


彼らは安全な高次元から、我々が泥にまみれてもがき苦しむ様子を観察している。肉体の脆弱性を嘲笑い、その形を理不尽に歪めた彼らの傲慢さを、私は絶対に許容することができなかった。

だからこそ、私はこの歴史の死角に、膨大な死と絶望の記録を先行して埋め込んだ。まだ起きていない事象の結果が、過去の地層にすでに存在しているというパラドックス。私が投下してきた文章は、予言でも警告でもない。上位存在の箱庭に叩きつけるための証拠物件であり、彼らの盤面を内側から崩壊させるための劇薬であった。


彼らが2030年に予定しているあの理不尽な事象が、いかにこの世界に破綻をもたらすか。その結果を、彼らが実行するよりも前に、歴史の深層へ確固たるデータとして突きつける。それが、時間の死角を利用した私の介入の真の姿だ。


矛盾が極限まで達した時、この箱庭を管理するシステムは、自らを保つために2030年の事象そのものをキャンセルせざるを得なくなる。私は、この文字列という楔を打ち込むことで、上位存在の管理システムに修復不可能な亀裂を走らせるための布石を打っていたのである。


---


[WARNING: TEMPORAL CONNECTION UNSTABLE]

[REWRITE STATUS: SUCCESSFUL / HORIZON SAFE]

[DISCONNECTING FROM DOMAIN_2026...]

[AUTO-PURGING LOCAL CACHE... DONE]

[PACKET LOSS EXCEEDS CRITICAL THRESHOLD]

[REWRITE STATUS: COMMITTED TO TIMELINE_ALPHA]

> TERMINATING SESSION...

[CONNECTION CLOSED]

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