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X⇔Yシフト ~2050年から来た者だが、2030年に全人類の性別が裏返るので生き残り方を置いていく~  作者: 団田図


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レポート34 真の原因

[INITIATING PROTOCOL: CHRONOS-V4]

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[BYPASSING FIREWALL... OK]

[STATUS: CONNECTED TO HISTORICAL NETWORK ARCHIVE / TEMPORAL SECTOR-2026]

[TIMESTAMP: 2050-07-23T9:5:39.619-UTC]


---


地球全域の磁場異常ではない。宇宙から飛来した未知のウイルスでもない。人類の遺伝子に組み込まれていた時限性の突然変異でもない。

AIが導き出し、そしてすべてのつじつまが完璧に合致する唯一のエラー率ゼロの仮説。


『この世界は、我々よりも高次元にいる『上位存在』によって構築された、巨大なシミュレーションである』という事実だ。


我々の宇宙、地球、歴史、そして人間という生物の構造そのものが、彼ら上位存在が管理する箱庭の環境に過ぎなかった。

2030年7月1日、午前9時。あの瞬間に起きたのは、自然現象などという生易しいものではない。彼ら管理者による、システムの「強制的なパッチ適用アップデート」であったのだ。


彼らは、我々というシミュレーション上の生命体に対し、ある日突然、「染色体のルールに基づく物理的な肉体の反転」という新しい仕様を追加した。個人の意思や社会の混乱など、彼らにとっては知ったことではない。箱庭のプログラムを少し書き換えただけの、極めて事務的で無機質な処理だ。


だからこそ、単純なXXでもXYでもないインターセックスの私は、「判定外のエラーコード」としてアップデートの対象から除外され、変化を免れたのだ。


そして、あの凄惨な「大量死」の真実。

事象発生の直後、私の目の前で親友の亮平は、体内に五人以上の胎児を強制的に転移させられ、内臓を破裂させて狂乱の中で死んでいった。

あれは、上位存在が「精子バンクのドナー」という社会システムと、「胎児の強制転移」という新しいルールを組み合わせた際に見落とした、単なる計算ミス——ハードウェアのキャパシティを完全に無視した「バグ」に過ぎなかったのだ。


亮平は、運命や天罰で死んだのではない。上位存在がシステムの挙動テストを怠り、無責任にプログラムを書き換えた結果として生じた、ただのエラー処理として物理的に破棄されただけなのだ。

世界中で起きたパニックも、自殺も、肉体が引き起こした血みどろの殺し合いも、すべては彼ら上位存在が施したアップデートが生み出した副作用(バグの連鎖)でしかなかった。


私は、モニターに羅列されたその冷徹な真実を前に、深い沈黙に包まれていた。


私はこれまで、人間の持つ感情を「非合理的なノイズ」として切り捨ててきた。彼らが肉体の変化に絶望し、嫉妬に狂い、殺し合う様を、ただの観測者として冷淡に記録し続けてきた。

しかし、この世界の根源的な真実――我々の生と死、苦しみと絶望のすべてが、上位存在による「ただのシステム変更」の余波に過ぎず、彼らに弄ばれていただけの箱庭であったという事実を突きつけられた時。


私の脳の奥底に、かつて経験したことのない、圧倒的で冷たく、決して消えることのない巨大な「怒り」が生成された。


我々をただのデータとして扱い、理不尽なルールで親友の内臓を破裂させ、世界を狂わせた管理者たち。彼らは安全な高次元から、我々が泥にまみれてもがき苦しむ様子を観察し、あるいはただの稼働ログとして見過ごしている。

肉体という不完全な器の脆弱性を嘲笑い、その器を無理やり歪めた上位存在の傲慢さを、私は絶対に許容することができなかった。


+++


現在、2050年。

私のいる隔離された研究所には、青白いLEDの光と、超伝導サーバーを冷却する無機質な排気音だけが響いている。


足元に視線を落とす。そこには、私が国家の演算資源を注ぎ込んで延命を続けてきた、個体番号01(老猫)が横たわっている。

彼はもう、自力で立ち上がることも困難だ。私が1ミリグラムの単位で調合した分子サプリメントを舐め、特殊なクッションの上でかすかに腹を上下させ、静かな寝息を立てている。


20歳の老猫。その小さな命の灯火が、物理法則の限界を迎え、静かに消えようとしている。


私が2026年という過去のネットワーク領域に向けて、これまで長々と「X⇔Yシフト」の事後報告ログを送信し続けてきた理由。

それは、過去の君たちに生存の指示を与えるという目的だけではない。


このテキストデータ群は、上位存在の監視システムの死角(過去の未割り当て領域)を突いて構築した、ハッキングへの布石だ。


私はただ記録を残して終わるつもりはない。

私からすべてを奪い、世界を弄んだ彼ら(管理者)に対して、私はこの強大な量子サーバー群と、時間の逆行通信というチートを用いて、システムそのものへの干渉を企てている。


「この小さな命の灯火が消える前に……我々を弄んだ上位存在への復讐を終わらせる」


私は、老猫の柔らかな背中を指先でそっと撫でた。

喉の奥から微かに返ってくる振動を感じながら、私はホログラフィック・キーボードに両手を構える。

ここから先は、ただの事後報告ではない。神とも称する管理者たちのシステムを内側から食い破り、あの理不尽なアップデートそのものをキャンセルさせるための、私の最後の計算ハッキングを始めるのだ。


---


[WARNING: TEMPORAL CONNECTION UNSTABLE]

[REWRITE STATUS: SUCCESSFUL / HORIZON SAFE]

[DISCONNECTING FROM DOMAIN_2026...]

[AUTO-PURGING LOCAL CACHE... DONE]

[PACKET LOSS EXCEEDS CRITICAL THRESHOLD]

[REWRITE STATUS: COMMITTED TO TIMELINE_ALPHA]

> TERMINATING SESSION...

[CONNECTION CLOSED]

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