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X⇔Yシフト ~2050年から来た者だが、2030年に全人類の性別が裏返るので生き残り方を置いていく~  作者: 団田図


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32/38

レポート32 新機構

[INITIATING PROTOCOL: CHRONOS-V4]

[AUTHENTICATING USER CREDENTIALS... VERIFIED]

[FILTERING BACKGROUND NOISE... APPLYING REDUCTION ALGORITHM]

[BYPASSING FIREWALL... OK]

[STATUS: CONNECTED TO HISTORICAL NETWORK ARCHIVE / TEMPORAL SECTOR-2026]

[TIMESTAMP: 2050-07-21T15:16:10.693-UTC]


---


現在、2050年の冷たい研究所で、私はこのテキストデータを過去の領域へ向けて送信している。私の足元では、個体番号01(老猫)が温度管理されたクッションの上で、かすかな寝息を立てている。


歴史の針を、事象発生から12年が経過した2042年へと進める。当時40歳となっていた私の記録だ。


私の存在は暫定政府の中で極めて特殊な位置を占めることとなった。為政者たちは、この国の生命線を握る私に対して、多大な権力と名誉、そして政府中枢における最高位の座を用意した。彼らは、私を表舞台に立たせることで、自身の権力基盤を確固たるものにしようと目論んでいたのだ。


しかし、私はその一切を冷酷に辞退した。


肉体の形が変わろうとも、人間という生物が持つ「権力闘争」や「複雑な関係性」といった醜悪な本質は何も変わっていなかった。派閥を作り、他者を蹴落とし、見栄と虚飾のために貴重な思考の時間を浪費する。そのような不毛な人間の群れの中に身を置くことは、私にとってただの苦痛であり、知性の無駄遣いでしかなかった。


私は政府高官との交渉の席で、彼らが提示した地位や特権を「思考を鈍らせるだけの不純物だ」と一蹴した。そして、私が政府へ恒久的な協力を約束するための、唯一にして絶対の条件を提示した。


「私と、私が飼育している猫が生存するための、完璧な環境を保証しろ」


それは、外部からのいかなる干渉も受けない、温度と湿度が完全制御された巨大な隔離施設の提供。そして、この猫が生涯にわたって消費するための、最高品質の無添加食糧の恒久的な供給であった。

国家の命運を左右するシステムの対価として、一匹の獣の快適な生活環境を要求する。彼らは私の条件に困惑し、狂人を相手にしているような目を向けたが、最終的にはそれを受け入れる以外に選択肢はなかった。こうして私は、一切の社会的名誉を捨て去る代わりに、人間のノイズが届かない完璧な城と、政府の裏側における絶対的な権限を手に入れたのである。


+++


時はさらに流れ、2045年。私が43歳になった年だ。


国家の復興が完了し、社会システムがかつての水準を完全に超えたこの時期、政府は莫大な資源を投じて【国立・地球環境および社会動態シミュレーション機構】という巨大機関を設立した。気象変動、人口動態、経済の推移など、地球上で発生するあらゆる事象を演算し、国家の未来を完全に予測・統制するための機関である。


政府は、この巨大機関のトップに立つ人間として、私を指名した。


理由は極めて明確であった。私が人類の中で最も感情に流されず、何よりもあの事象の影響を一切受けずに旧世界の姿をそのまま保つ「狂いのない観測者」であったからだ。社会の形がどれほど歪に再編されようとも、私だけは常に一定の視点から物事を冷徹に計算できる。為政者たちは、その機械のような正確さを必要としていた。


私はこの機関の「主任研究員」および「データアーキビストの統括責任者」として就任した。これにより、私は国家予算の約4割が集中して投入される超伝導量子サーバー群の、実質的な全権限を掌握することとなった。


就任後、私がこの巨大機関のトップとして最初に下した命令は、極めて暴力的なものであった。


「この施設内から、私以外のすべての人間の職員を即刻退去させろ」


政府から派遣されていた優秀な研究員や、施設の維持管理を担っていた職員たちは、突然の解任通告に激しく抗議した。しかし、私の決定は覆らなかった。


理由は単純だ。人間の発する体温という微熱、無意識の呼吸音、足音、そして何より彼らが持ち込む「感情」という不確実な振動は、精密な超伝導サーバーの冷却効率をわずかに低下させる。そして同時に、私の足元で穏やかな睡眠を必要としている個体番号01(老猫)にとって、許容しがたい不快なノイズであったからだ。


私は人間の職員を一人残らず施設から追放し、彼らが担っていた監視やメンテナンスの業務を、すべて自動化された機械制御とAIの自律システムへと置き換えた。広大な施設の廊下からは人間の話し声が完全に消え失せ、規則正しい機械の駆動音だけが響くようになった。

人間という不完全な存在を完全に排除し、私は純粋な計算資源と、一匹の猫だけが存在する、完璧な孤絶環境を作り上げたのである。


---


[WARNING: TEMPORAL CONNECTION UNSTABLE]

[REWRITE STATUS: SUCCESSFUL / HORIZON SAFE]

[DISCONNECTING FROM DOMAIN_2026...]

[AUTO-PURGING LOCAL CACHE... DONE]

[PACKET LOSS EXCEEDS CRITICAL THRESHOLD]

[REWRITE STATUS: COMMITTED TO TIMELINE_ALPHA]

> TERMINATING SESSION...

[CONNECTION CLOSED]

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