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X⇔Yシフト ~2050年から来た者だが、2030年に全人類の性別が裏返るので生き残り方を置いていく~  作者: 団田図


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レポート14 治安維持機構

[INITIATING PROTOCOL: CHRONOS-V4]

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[STATUS: CONNECTED TO HISTORICAL NETWORK ARCHIVE / TEMPORAL SECTOR-2026]

[TIMESTAMP: 2050-07-3T12:11:18.834-UTC]


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現在、私の視界の端では「個体番号01(老猫)」が、与えられた爪とぎ用の麻板に前足をかけ、無駄のない動作で鋭い爪を研いでいる。自身の肉体の武器を常に最適な状態に保とうとする、生命体としての純粋な防衛本能の表れだ。

彼が爪を研ぐ乾いた音を聞きながら、私は2030年の夏、事象発生から1ヶ月が経過した頃の狂気を思い起こす。


事象発生直後の数週間は、まだ辛うじて「物々交換」という理性的な取引が成立していた。服や靴、あるいは生理用品といった物資を介して、人々は互いの生存を交渉していたのだ。しかし、発生から1ヶ月が過ぎ、各家庭の備蓄が完全に底を突き始めると、社会の基軸通貨は全く別のものへと移行した。

交渉や対話という虚飾は剥がれ落ち、最も単純で物理的な「暴力」が、他者の物資を奪い、自身の生存を担保する唯一の決済手段となったのである。


暴力が支配する世界の幕開けを決定づけたのは、治安維持の要であった「刑務所」と「警察」の完全な崩壊であった。


事象発生により、男子刑務所は「華奢な女性の肉体を持った凶悪犯」で溢れかえった。彼らを管理すべき屈強な看守たち(その大半が元男性である)もまた女性の肉体へと変貌しており、未知の身体変化と暴動の恐怖にパニックを起こして職務を放棄した。


対照的に、女子刑務所では凄惨な事態が進行していた。そこは突如として、「圧倒的な筋力と闘争心を持った男たち」で満たされた檻となったのだ。彼女たち(現・男性)は、新しく獲得した肉体から分泌されるテストステロン(男性ホルモン)の波によって闘争本能を暴走させ、その物理的な膂力で鉄格子や監視設備を容易に破壊した。

統制は完全に崩壊し、脱走が相次ぐ。野に放たれた彼女たちは、略奪の主戦力として飢えた獣のように街へ雪崩れ込んでいった。


それを制圧すべき警察機構もまた、完全に無力化していた。

私は安全なマンションの高層階から、その凄惨な蹂躙劇を静かに観測した。暴徒化した屈強な大男(元女性の脱走犯)の集団に対し、どうにか防暴盾を構えようとする機動隊員たち。しかし、最前線に立つ隊員の大部分は元男性であり、今は非力な女性の身体に過ぎない。

数十キロに及ぶ重い防刃ベストやヘルメット、そして分厚いジュラルミンの盾は、急造された彼女たちの細い腕では持ち上げることも困難な重りであった。


隊員たちはその重装備ごと大男たちに軽々と吹き飛ばされ、警棒や無線機、さらには拳銃までもが次々と略奪者たちの手に渡っていく。法と秩序を守るための装備が、単なる腕力の差によって、最も危険な暴力の道具へと反転した瞬間であった。


治安機構が消滅した街では、人々の経済活動が「略奪」と「防衛」という極めて原始的なフェーズへと移行した。


この時期、街で最も血みどろの激戦区となったのは、食料品店ではなく「ホームセンター」であった。強力な肉体を得た新男性(元女性)たちは、己の暴力をさらに拡張させるため陳列棚に群がり、バール、大型ハンマー、チェーンソーといった工具を奪い合った。そこでは、より強い物理的な打撃力を手に入れるための、旧石器時代さながらの殺し合いが日常的に繰り広げられていた。


一方で、非力な女性の身体となってしまった元男性たちは、自らの身を守るための手段を必死に探し求めていた。これにより、闇市では食料以上に「護身用アイテム」の価値が異常な高騰を見せた。

強い筋力を必要とせずに相手を無力化できるスタンガンや催涙スプレー、あるいは手軽に振り回せる金属バットなどが、最高級品として狂気的なレートで取引されるようになった。力を持たない者は、かつてのプライドを捨ててこれらの道具にすがりつくことでしか、自身の生存を証明できなかったのだ。


力と暴力が支配するこの外界において、例外である私自身がどうしていたか。

結論から言えば、私はその血なまぐさい生存競争の輪には一切参加しなかった。私の肉体は変化を免れたとはいえ、元より平均的な筋力しか持ち合わせていない。闘争本能に支配された新男性たちと正面から物理的に衝突すれば、容易に破壊されるのは明白だった。


狂乱する群れに対し、直接的な力で対抗しようとするのは、極めて三流の判断である。私は純粋な知性と計算によって自身の安全を確保した。

自室の扉の前には、廊下の廃材を利用した物理的な障害物とトラップを幾重にも配置した。夜間は一切の光と音を漏らさず、自身の気配を完全に環境と同化させることで、略奪者の意識から「この部屋の存在」そのものを消去した。


彼らを愚かだと見下すつもりはない。肉体が変容し、生存の前提が崩れれば、人間が力にすがるのは極めて論理的な帰結だからだ。

窓の外で繰り広げられる打撃音や悲鳴を冷淡に聞き流しながら、私はただ静かに息を潜め、この都市が巨大な暴力の檻へと変貌していく過程を、一つの生態データとして記録し続けた。


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[WARNING: TEMPORAL CONNECTION UNSTABLE]

[REWRITE STATUS: SUCCESSFUL / HORIZON SAFE]

[DISCONNECTING FROM DOMAIN_2026...]

[AUTO-PURGING LOCAL CACHE... DONE]

[PACKET LOSS EXCEEDS CRITICAL THRESHOLD]

[REWRITE STATUS: COMMITTED TO TIMELINE_ALPHA]

> TERMINATING SESSION...

[CONNECTION CLOSED]

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