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X⇔Yシフト ~2050年から来た者だが、2030年に全人類の性別が裏返るので生き残り方を置いていく~  作者: 団田図


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レポート15 DV被害者

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[STATUS: CONNECTED TO HISTORICAL NETWORK ARCHIVE / TEMPORAL SECTOR-2026]

[TIMESTAMP: 2050-07-4T21:12:7.980-UTC]


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街路で繰り広げられる無秩序な略奪や、ホームセンターにおける血みどろの闘争の裏側で、社会の最小単位である「家庭」という密室でも、別の種類の凄惨な暴力が連鎖していた。

それは、物理的な力の逆転が引き起こした、陰惨な血の清算である。


事象発生前、家庭という閉鎖空間において、圧倒的な腕力で配偶者を支配し、日常的に暴力を振るっていた者たちがいた。しかし、事象の発生により、暴力を振るっていた夫は非力に、暴力を受けていた妻は屈強な肉体になるという逆転現象が起きた。昨日まで怯えていた妻たちは、突然として、自分を虐げてきた人間を赤子のように捻り潰せるだけの巨大な筋力と骨格を手に入れたのである。

社会の法が完全に機能停止し、警察機構も崩壊した今、彼らの行為を裁く第三者はどこにも存在しない。その結果、長年の恨みを晴らすための凄惨な復讐事件が世界中で同時多発する事態となった。「力の逆転」によって、DV被害者が加害者へ復讐する事件が頻発したのである。


私の知人にも、かつて妻に対して陰湿な身体的虐待を繰り返していた男がいた。彼は事象発生後、急激に縮んだ華奢な身体で、見上げるような大男に変貌した妻と密室で対峙することになった。

後日、私は自身の安全を確保しつつ周辺の状況を観測していた際、かつて暴力を振るっていた男が非力な女性の身体になり、逆転した妻に凄惨な報復を受けた知人の生々しいエピソードを、間接的に記録することとなった。半開きになった彼の部屋のドアの隙間から見えたのは、徹底的に破壊された家財道具と、壁や床にこびりついた大量の赤黒い染みであった。そこには、かつての被害者が新しく得た圧倒的な力によって、長年の鬱屈を爆発させ、加害者を徹底的に破壊した痕跡だけが残されていた。

私はその惨状を前にしても、恐怖や嫌悪を抱くことはなかった。ただ、人間が誇る倫理や理性といった概念が、筋力という極めて単純な物理的条件の前にいとも簡単に崩れ去り、個人の恨みが直接的な暴力によって清算されていく過程を、冷徹な事実として書き留めただけである。


そのような暴力の連鎖と狂気が都市を覆い尽くしていた、ある日の夕暮れのことだ。私は路地裏のゴミ捨て場で、人間の感情の脆弱性を証明する、極めて興味深い現象を観測した。

物資の動きを偵察していた私の視線の先で、一人の大男が乱暴な足取りで歩いていた。その歩き方の不自然さと骨格のバランスから、彼が元女性であることは明白だった。彼はゴミ捨て場の前で立ち止まると、手に提げていた小さな段ボール箱を、瓦礫の山へ向けて無造作に放り投げた。


「こんな面倒な生き物、どうして買っちゃったのかしら」


野太く、ひどく苛立ちに満ちた声が響いた。彼が足早に去った後、投げ出された箱の中から聞こえてきたのは、微弱で甲高い鳴き声であった。

暴力の連鎖が続く中、男性ホルモン(テストステロン)が急増した元女性(現・男性)が、子猫をゴミ捨て場に投げ捨てる場面を目撃した瞬間である。


私は静かにその箱へ近づき、泥と埃にまみれた小さな毛玉を見下ろした。

かつての彼女(現・男性)は、事象発生前には間違いなくこの小さな命を自室に迎え入れ、餌を与えて慈しんでいたはずだ。しかし、肉体が変異し、未知の男性ホルモンが急激に脳内を駆け巡った結果、闘争心や生存本能が過剰に刺激されたのだろう。その結果、かつて持っていたはずの庇護欲や愛情といった感情すらもが、全く別の思考回路によって完全に上書きされてしまったのだ。

私はこれを、肉体の変化が庇護欲(愛)すらも上書きする現象の、極めて興味深いサンプルであると判断した。人間が自負する愛情や責任などという精神的な結びつきが、内分泌系のわずかな変化でいとも簡単に消え去るという冷徹な証明に他ならない。


私は、箱の中で震えながら鳴き続けるその汚れた子猫を見つめた。

この小さな生き物は、互いの肉体を変化させて殺し合う人間たちとは違い、自身の姿形を変えることもなく、ただ純粋な生存本能だけで私に鳴き声を上げている。私はその場で短い計算を行った。この異種族の生物を私の安全な空間に持ち込むことによるリソースの消費と、それがもたらす長期的な観測データとしての価値の比較だ。

結果として、私は「生態観測」という名目で、その汚れた子猫を拾い帰り、自室での飼育を始めることにした。人間の精神の移ろいやすさを観察する上で、一切変化しないこの小さな獣との対比は、極めて有用な指標になると考えたからだ。


現在、2050年。

私の足元では、あの日ゴミ捨て場で拾い上げた毛玉が、「個体番号01」として、立派な銀色の毛並みを蓄えた老猫に成長している。彼は私の足首に身体をこすりつけ、静かに喉を鳴らした。

人間の愛情が肉体の変容によってあっさりと消滅したあの残酷な日から20年。私という観測者の隔離された空間で、この小さな獣だけが、いかなる矛盾も起こさず、ただ一つの揺るぎない命の形を保ち続けている。

その規則正しい呼吸音だけが、私にとって何よりも美しく、合理的な真理であった。


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[WARNING: TEMPORAL CONNECTION UNSTABLE]

[REWRITE STATUS: SUCCESSFUL / HORIZON SAFE]

[DISCONNECTING FROM DOMAIN_2026...]

[AUTO-PURGING LOCAL CACHE... DONE]

[PACKET LOSS EXCEEDS CRITICAL THRESHOLD]

[REWRITE STATUS: COMMITTED TO TIMELINE_ALPHA]

> TERMINATING SESSION...

[CONNECTION CLOSED]

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