94.「王国への忠誠」
枝先の芽が、また風に揺れた。小さく、そして確かな生命力を持って。
「行くか」
「はい、行きましょう」
繋いでいた手を離し、私たちは歩き出した。
夕闇が迫る領地を、長く伸びた二人の影が並んで進んでいく。
☆
翌朝、王国側が動いた。
朝食の前、血相を変えたランドルフが執務室に飛び込んできた。
「王宮の使者と、騎士団の使者が、到着されました!」
廊下へ出ると、ちょうど自室から出てきたレオと鉢合わせた。
私たちは無言のまま、互いの瞳に映る緊張を確かめ合う。
「思っていたより早いな」
「……ええ。本当に早すぎるくらい」
「どうしますか?」
「受けるさ。逃げたところで、現実は追いかけてくる」
「……一緒に行きます。いいですね?」
「ああ。来い」
応接室に足を踏み入れると、二人の男が待機していた。
王宮側の使者は、以前までの事務官とは明らかに格が違った。制服の装飾は重厚で、その立ち居振る舞いには上位者の威圧感が宿っている。
騎士団側の使者は、レオより数歳上の、鋭い眼光を持つ男だった。
私たちが並んで立つと、二人の使者が同時に腰を上げた。
「グランツ殿、ヘインフォード様」
王宮の使者が、重々しく口を開く。
「本日は、昨日の申し出に対する正式な回答を持って参りました」
「分かっています。――座ってください」
レオの促しで、四人がテーブルを挟んで向かい合う。
「グランツ殿。貴殿より、正式命令への不服従の申し出があったと報告を受けました」
王宮の使者は、有無を言わさぬ口調で続けた。
「これは騎士としての義務、ひいては王国への忠誠に反する行為です」
「承知しています」
「理解した上で、撤回しないということですか」
「そうです」
「……理由を」
レオは、わずかに間を置いた。
「個人的な、事情です」
「個人的な事情?そんなもので正式命令の拒否が認められるとお思いか」
「認められないことは知っています。――それでも、私は拒否する」
使者の表情が、微かに揺れた。驚きというよりは、計算外の頑迷さに戸惑っているような顔だ。
「貴殿はこの任務で多大な功績を上げた。これまでの経歴を、すべて無にするつもりですか」
「その覚悟で申し出ています」
使者の冷ややかな視線が、私へと転じられた。
「ヘインフォード様。貴女はこの件を?」
「……すべて、存じております」
「グランツ殿の選択を、どうお考えか」
「――支持しております」
「支持、ですか。……よろしい、では正式に通達します」
使者は一枚の書類を突きつけた。
「グランツ・レオの騎士資格については、現在、審査中とする。最終判断は騎士団の上位評議会に委ねられた。それまでの間、現任務の継続を認める」
「継続を、認めるのですか?」
思わず問い返した私に、使者は冷淡に条件を付け加えた。
「領地移管が完了するまで、この場を離れないこと。そして引き継ぎ終了後、直ちに騎士団へ出頭すること。以上だ」
沈黙を守っていた騎士団側の使者が、ここで初めて口を開いた。
「レオ」




