表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】契約結婚の相手は最悪の騎士でした。不正解な結婚のはずが彼は全てを捨てて任務より私を取りました  作者: 猫燕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
93/100

93.「二人の方が」

 歩きながら、レオがぽつりと呟いた。


「突然ですね。何のことですか?」

「考えていたんだ。水路に水が流れていること。住民の顔つきが穏やかになったこと。……それは、管理者が誰になろうと、今日ここにある事実に変わりはない」

「明日は、どうなるか分かりませんけれど」

「明日のことは明日考えればいい。……俺が選んだことで、すべてが救われるとは思っていない。だが、今日ここにある光景は、俺たちが選んだ結果だ」


 ☆


 水路の合流地点にたどり着いた。

 かつて住民たちが水利権を巡って怒鳴り合っていた場所だ。

 今はただ、清らかな水が音を立てて合流し、下流へと流れていく。


「あの日、ここはひどい騒ぎでしたね」

「ああ、覚えている。……時間がかかったが、変わったな」

「ええ。変わりましたね」


 水の音を聴きながら、私たちはしばらく立ち尽くしていた。


「クラリス、来い。見せたいものがある」


 レオが歩き出したのは、領地の境に近い、見晴らしの良い小高い丘だった。

 そこには一本の冬枯れた木が立っていた。

 だが、その枝先をよく見ると、小さな、本当に小さな芽が顔を出している。


「芽が出ています……」

「春が来る。俺たちがここを去った後も、春は必ず来る。住民は種を蒔き、水が流れ、何かが育つ。……俺たちがいなくなっても、続くものがあるんだ」


 私が一人で考えていたことと、全く同じ言葉。


「……私も昨日、同じことを考えていました」

「そうか。同じ場所を見ていたということだな。言葉を交わさなくても」

「それは、いいことでしょうか」

「俺にとっては、いいことだ」

「……私にとっても」


 小さな芽が、春の風に揺れる。


「命令を断った結果、どうなるかは分からない。騎士資格を失い、何もかも失うかもしれない」


 レオが私を真っ直ぐに見つめた。


「それでも、俺は今ここにいる。お前はどうだ」

「私も、ここにいます。最後まで」

「終わった後は?」

「……まだ分かりません。でも、その先のことを、考えています」

「……どんな先を」

「まだうまく言えません。けれど、今でなくていいでしょう?」


 レオは視線を落とし、不器用に手を差し出してきた。


「一つだけ言う。お前が選んだように、俺も選んだ。どちらが先かは関係ない。今、同じ場所に立っている。それがすべてだ」

「同じ場所……合理的ではない、正しくない選択をした場所、ですね?」

「良い場所かどうかは、ここから先の俺たちが決めることだ」

「なら、良い場所にしていきましょう。私と一緒に」


 私は、差し出されたその手を取った。

 長い間外にいたせいで冷え切っていたけれど、その奥には確かな熱量があった。


「……命令に背いただけでは、何も解決しません。王宮はまた動くでしょうし、これからが本当の正念場です。怖いですか?」

「……少しな」

「正直ですね。私も、少し怖いです。でも……一人より、二人の方が良い」

「……そうかもしれないな」

「いいえ、絶対にそうです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ