表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】契約結婚の相手は最悪の騎士でした。不正解な結婚のはずが彼は全てを捨てて任務より私を取りました  作者: 猫燕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
87/100

87. 「少し遠回り」

 声は茶色い土の上に吸い込まれ、消えていった。答えは返ってこない。

 でも言葉にしたら私は報われた気がした。


 ☆


 屋敷に戻る頃には、空は夕刻の色に染まり始めていた。

 玄関でランドルフに迎えられ、


「レオ様がお探しです」


 と告げられる。

 執務室の扉を叩くと、レオは依然として机に向かっていた。


「戻りました」

「遅かったな」


 顔を上げず、レオが短く応える。


「少し遠回りをしました。北の農地まで」

「……一人で何を考えていた」

「うまく言葉にできないことを、色々と」


 レオの手が止まる。

 彼は椅子を回し、私を正面から見据えた。


「言葉にできないことを、考え続けることに意味があるのか」

「あります。すぐに形にならない想いを持ち続けることで、いつか自分だけの答えになる。あなたも、そうだったはずでしょう?」

「……フン」


 彼は鼻を鳴らし、わずかに視線を逸らした。

 沈黙が流れる。

 レオは何かを推し量るように私を見つめていた。


「……お前は、変わったな」

「そうですか?」

「最初の頃のお前は、全部を守ろうとして、守れない現実に押し潰されそうになっていた。だが今は……違う。守れないものがあることを知った上で、なお、そこに立っている」


 その指摘は、あまりにも正確だった。


「今日、お前がいない間に書類を整理しながら考えていた。お前がこの四ヶ月、どう足掻いてきたか。数字や記録を辿れば、判断の変遷が見える。……お前は理想から始まり、現実に叩きのめされ、最後にはその両方を抱えて動くようになった」

「書類から、そんなことまで分かるのですか」

「数字は嘘をつかない。……俺には、お前のような住民の顔から状況を読む真似はできないがな。互いに、読み方が違うだけだ」

「……そろそろ行きましょう。トーマのところが賑やかになります」


 私が促すと、レオは静かに立ち上がった。机の上の書類を片付け、引き出しに仕舞い込む。

 その動作は、一つの区切りをつける儀式のようだった。

 二人で執務室を出て、廊下を並んで歩く。以前なら、彼は私の数歩前を歩いていた。

 今は、肩を並べて歩幅を合わせている。


「礼は言うなよ」


 不意にレオが釘を刺すように言った。


「お前が礼を言うと、俺が感謝を受け取る側になる。……慣れていない」

「これから慣れてください。慣れていなくても、受け取ることはできます。拒絶せず、ただ持っていればいいんです」

「……お前らしい言い方だ」


 廊下の突き当たり、外へと続く扉を開ける。

 夕暮れ時の光が、私たちの顔を橙色に染めた。影が長く、深く伸びている。


「夕方になりましたね」

「ああ」

「行きましょう。待っていますから」


 並んで歩き出す。

 刺すような冷気の中、私たちは同じ方向を見据えて、一歩ずつ。


 ――運命の歯車が、音を立てて回り出したのはその夜のことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ