表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】契約結婚の相手は最悪の騎士でした。不正解な結婚のはずが彼は全てを捨てて任務より私を取りました  作者: 猫燕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
83/100

83. 「後でいい」

 レオの言葉に、トーマは満足そうに目を細めた。そして、重い瞼をゆっくりと閉じていく。

 部屋を出ると、夜の廊下は凛とした静寂に包まれていた。


「『正しかった』と言ってもらえたわね」


 私が隣のレオに声をかけると、彼は短く


「ああ」


 とだけ返した。


「でも、正しかったのに、助けてほしかったと言われた」

「……正しさだけでは、守れないものがある。分かっていたつもりだったが、今日は違う響き方をした」

「どう違いましたか?」

「知識ではなく、顔のある言葉として聞いたんだ。トーマの顔で。……正しさと、救いのなさが同時に存在することを」


 レオの横顔は、暗がりのなかでどこか変わって見えた。


「俺は、正しい方を選び続けてきた。合理的な方を選び、その積み重ねの結果が今だ。……だが、正しさでは救えないものがある。それが俺の出した結論だ」

「……それが分かったなら、次はどうしますか?」

「……まだ、分からない」

「分からなくていいと思います。今夜、あなたがそれを口にできたこと自体が、大きな変化なのですから」


 レオは少し黙り、それから私を見た。


「……お前は変わらないな。そういうところが」

「どういうところですか?」

「……言わない」

「なぜですか」

「言いたくないからだ」


 その子供じみた頑固さに、私は思わず微笑んでしまった。


「では、言わなくていいです」

「……ああ」


 レオの足音が遠ざかっていく。

 今夜の彼の足取りは、いつになく重厚で、だけどどこか軽やかでもあった。

 何かを置いてきたような。あるいは、新しく何かを拾い上げたような。


 ☆


 翌朝、レオは驚くほど早くに目を覚ましていた。

 というより、夜明け前からずっと執務室に籠もっていたらしい。

 私が朝食のために廊下を通りかかると、扉の隙間から細い光が漏れていた。

 まだ周囲が暗いなか、揺らめく蝋燭の光だけが廊下にこぼれ落ちている。


「レオ様は早朝からおられます。今朝は食事も取っておられないようで」


 ランドルフの言葉に、私は眉をひそめた。


「……お持ちしましょうか」

「既にお声がけしましたが、『後でいい』と。あの方らしいお返事でしたよ」


 私は一人で朝食を済ませながらも、意識の半分は執務室の方へ向いていた。

 食事が終わると、私はパンを一つだけ布に包み、意を決して執務室の扉を叩いた。


「入れ」


 短い許可を得て中に入ると、レオは机に覆いかぶさるようにして書類の山と格闘していた。

 広げられているのは、いつもの地図ではない。

 今回の領地再建に関する、膨大な報告書の束だ。


「朝食、まだだと伺いました。少しでも食べたほうが良いですよ」

「後でいいと言ったはずだ」

「……後でいいなら、ここに置いておきますね」


 私が机の端に包みを置くと、レオは一瞬だけ視線を動かし、パンの包みに目を落とした。

 けれど、それ以上は何も言わずに視線を書類へと戻す。


「何を確認していたのですか?」

「……功績の処理についてだ。最初から今までの記録を、すべて洗い直していた」


 レオは珍しく、言葉を選ぶように少し間を置いた。

 いつもなら即断即決、考えるより先に結論を出す彼が、今朝はまるで慎重に足場を固めるような話し方をしている。


「そこに座れ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ