表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】契約結婚の相手は最悪の騎士でした。不正解な結婚のはずが彼は全てを捨てて任務より私を取りました  作者: 猫燕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/100

71.「後から来る」

 目的地に近づくにつれ、空気の緊迫感は増していった。低く、速い住民たちの囁き声。


「また来るかもしれない」

「子供を隠せ」


 彼らの視線が、私という異物を射抜く。

 私は一人一人に声をかけ、けが人の安否を確認し、今後の連絡先をカルに集約するよう指示を出しながら歩き続けた。


「ここです」


 トーマが足を止めたのは、壁の薄い、古びた一軒の家の前だった。

 彼が扉を叩くと、中から不安げな女性が顔を出した。

 トーマの母親。彼女は息子を抱き寄せ、そして私を見て驚きに目を見開いた。


「昨夜は……怖かったです。叫び声がして、窓から人が揉み合うのが見えて……」

「申し訳ありません。私の判断が遅れたせいで、怖い思いをさせてしまった」


 頭を下げる私に、彼女は困惑したように言った。


「あなたのせいじゃないわ。……でも、領主様がそんな風に言ってくれるなんて」

「当然のことです」


 と答えながらも、私の胸には苦い後味が残った。

 トーマが『外で食べられるから』と自分の取り分を母親に手渡す姿を見て、喉の奥が熱くなる。


(私が後回しにした場所に、この子たちの日常があったのに)


 帰り道、隣を歩くトーマがふと口を開いた。


「クラリス様。ぼくのこと、止めようとしたのに、一緒に来てくれた」

「……そうね。止められないって分かったから、隣にいることを選んだのよ」

「ぼくの言った『放っておけない』って言葉のせい?」

「ええ。私も同じだから。この領地を引き渡すその日まで、私も、放っておけないの」


 トーマは少し考えてから、前を向いて歩き出した。


「ぼく、なりたい人が分かった気がする」

「どんな人?」

「放っておけない人。でも、一緒に行ける人。……クラリス様みたいな人だ」


 騎士になりたいと言っていた少年の口から出た、意外な言葉。


「私みたいな人は、騎士様よりずっと地味で、大変よ?」

「いいんだ。どっちも合わせ持った人になりたいから」


 真っ直ぐな少年の背中を見送りながら、私は一人、道に立ち尽くした。

 背後に広がるのは、私が『後回し』にした区域。

 その判断を後悔しているかと聞かれれば、答えは出ない。

 別の場所を選んでいれば、また別の場所で同じことが起きていたかもしれないから。

 でも、分からないからこそ、歩みを止めるわけにはいかなかった。


 ☆


 屋敷の玄関前には、黒い外套を翻したレオが待っていた。

 状況を簡潔に伝えると、彼は


「聞いている」


 と短く答えた。


「知っていたの?あそこにトーマの家族がいることを」

「地図を見れば分かる。だが、お前が決めた優先順位だ。俺が口を挟むことじゃない」

「あなたなら……別の判断をした?」

「……分からないな」


 あの合理性の塊のような男が、一瞬、視線を彷徨わせた。


「同じ判断をしたかもしれないし、しなかったかもしれない。どちらが正しいかなんて、後にならないと分からないことだ。後悔は、後から来る。今は――次をどうするかだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ