表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】契約結婚の相手は最悪の騎士でした。不正解な結婚のはずが彼は全てを捨てて任務より私を取りました  作者: 猫燕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/100

58.「副産物」

 レオは書状を机に戻し、少しの間、沈黙した。


「……わからん。だが、無視できない違和感だ」

「使者が来る前に、真意を確かめる術は?」

「現状では難しい。来月、直接問いただす機会を待つしかないだろう」


 ある程度の評価の手応えを得た。しかし、その先に続くはずの『継続』という一言だけが、すっぽりと抜け落ちている。

 官吏の書く定型文だから、という可能性もある。

 けれど、私の胸のざわつきは、どうしても収まってはくれなかった。


「……気のせいだといいのですが」

「気のせいではないかもしれない」


 レオが私の言葉を先回りするように言った。


「レオも、同じことを?」

「『書いていないこと』にこそ、何かを感じる」

「そう、ですよね……」

「だが、今は材料が少なすぎる。来月まで待つしかない」


 私は書状を折り畳み、引き出しの奥へと仕舞い込んだ。

 レオはすでに視線を切り替え、今日の準備のために地図を引き寄せている。


「あの、レオ」


 呼びかけると、彼が顔を上げた。


「来月、使者が来るまでに……何か、しておくべきことはありますか?」

「記録の徹底だ。修復の進捗、配給の改善、住民の安定度。すべてを『数字』で突きつけられるようにしておく」

「わかりました。それは私が担当します」

「頼む。それから――」

「それから?」

「住民との関係を、もう一段、強固にしておきたい」

「……使者の評価を上げるために、ですか?」

「それも理由の一つだ」


 私は少し考え、首を横に振った。


「それは、少し本末転倒な気がします」

「……ほう?」

「住民と向き合うのは、使者のためではなく、彼ら自身のためであるべきです」

「結果は同じだろう」

「いいえ、動機が違えば結果も変わります。使者のためなら、査察が終われば緩んでしまう。けれど住民のためなら、その後もずっと続く。そうでしょう?」


 レオが、ふっと動きを止めた。


「……そうだな」

「ですから、私は住民のために続けます。それが結果として評価に繋がるなら、それはあくまで『副産物』です」

「わかった。好きにしろ」

「レオはどうするのですか?」

「……俺も、同じようにする。動機については、今後考えるとしよう」


 不器用な彼の返しに、私の口元が少しだけ緩んだ。


「ええ、よく考えておいてくださいね」

「……言われなくてもそうする」


 レオが地図に目を戻し、淡々と告げる。


「今日は東の区域だ」


 窓の外には、今日も鈍色の雲が広がっている。

 けれど昨日より、その雲の輪郭は光を帯びて明るい。

 春の訪れはまだ遠いけれど、冬の厳しさが、ほんの少しだけ解け始めていた。


 ☆


 使者が訪れたのは、それから二週間後のことだった。

 私は前夜から不備がないか記録を洗い直し、レオもまた数字の整合性を完璧に整えた。


「……緊張、していますか?」


 査察への出発直前、廊下でレオに尋ねた。


「見た目に出ているか?」

「少し、肩に力が入っています」

「……お前もな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ