48. 「ただの事実よ」
そう問いかけると、トーマの頬がみるみる赤く染まった。図星だったらしい。
「……格好いいな、と思って。僕も、いつかああいう人になりたいんです」
背後で友達が
「また言ってる」
と囃し立てるのを、トーマは
「うるさい!」
と小声で一喝した。
私は思わず、小さく笑みをこぼした。
「レオに直接、お話ししてみたことはある?」
「ないです。……だって、怖そうだし」
「怖くはないわよ。ただ、かなり……ちょっと無愛想なだけで」
「同じじゃないですか!」
「似ているけれど、違うのよ。怖い人には近づいてはいけないけれど、無愛想な人は、慣れてしまえば大丈夫」
トーマが不思議そうに首を傾げた。
「慣れた人がいるんですか?」
「……ええ。今、私が慣れているところよ」
トーマは驚いたように目を丸くし、それから弾けるように笑った。屈託のない、幼い笑い声だった。
☆
復旧作業の現場に戻ると、レオは倉庫の影で部下のカルと打ち合わせをしていた。
手帳を片手に状況を詰め、余計な動き一つなく指示を飛ばしている。
私が近づくと、カルは一礼して下がっていった。
「北区域の確認はどうだった」
「問題ありません。ただ、冬の間に外壁が傷んだ家が一軒ありました。優先度は高くありませんが、春までには対処すべきかと」
「カルに伝えておけ」
「ええ。……それと、南区域でまたトーマに会ったわ」
レオの手が少しだけ止まる。
「子どもたちで、路地の水はけを直そうとしていたの。あなたの修復作業を見ていて、自分たちでもできると思ったんですって」
レオが手帳から視線を上げた。
「……見ていたのか」
「ええ、ずっと端っこで。――あなたのことを、格好いいと言っていたわ」
レオは再び手帳に目を戻したが、その指先がわずかに動いた。
遠くの何かを思い返すような、捉えどころのない目。
「……子どもが、見ていいものじゃない」
「そんなことはないわ。でも、やめとけと言っても無駄そうよ。なりたいと思ったら、きっとなり遂げる子だわ。誰かさんに似て、とても頑固そうだったもの」
レオが私を、真っ直ぐに見た。
「……余計なことを言うな」
「ただの事実よ」
「へらず口だな」
レオがわずかに視線を逸らした、その時。
「クラリス様、レオ様!」
カルの声が、焦ったように響いた。
「北区域と中央区域の境で、水路の土台が崩落しかけています!今朝の視察では見落とされていました!」
空気が一瞬で張り詰める。
レオは即座に手帳を上着の内側にねじ込み、駆け出した。
「行くぞ!」
「私も行きます!」




