45.「重そうですよ」
揺れる二本の炎を見つめながら、私は静かに告げる。
「いいです、認めてもらわなくても。あなたの行動を見れば、分かりますから」
「……行動で、分かるか。お前は、よく見てるんだな」
「まだ数週間ですけれど、集中して観察していましたから。理解できない人を、理解したかったの」
レオの灰色の瞳が、真っ直ぐに私を射抜いた。
蝋燭の光を反射したその目は、出会った頃よりもずっと、温かな温度を帯びているように見えた。
「……少しは、分かったか?」
「まだ三割くらい。残りの七割は、これから時間をかけて暴いていくつもりです」
「……これから、か。長い話になりそうだな」
「ええ、そうね」
一本の蝋燭がふっと揺れ、炎が細くなる。
けれど消えることなく、再び強く燃え上がった。
「明日も視察に行くぞ。北側の水路を確認する」
「ええ。私も同行するわ」
椅子を引いて立ち上がったレオは、部屋を出る間際に足を止めた。
「今夜はよく休め。顔が疲れてるぞ……おやすみ」
「おやすみなさい、レオ」
閉ざされた扉の向こうに、彼の足音が遠ざかっていく。
私は一人、食堂に残された。
あなたは秩序を、私は信頼を。並んで歩くわけでも、向き合って対峙するわけでもない。
同じ方向を見つめ、互いの背中を預けながら、私たちは暗闇の中を少しずつ進んでいく。
☆
それから三日が経った。
この三日間、私たちは文字通り止まることなく動き続けた。
レオが断行したのは、配給ルートの強引なまでの再編だ。中間の滞留をすべて洗い出し、担当者を容赦なく入れ替え、最短の順路を構築した。
現場の反発は凄まじかったが、彼は力でそれをねじ伏せた。
結果、三日後には全区域に食料が行き渡っていた。
一方で、私は住民の間を回り続けた。
カルと手分けして、一人ひとりの声に耳を傾ける。説明し、不満を受け止め、何ができて何ができないかを誠実に伝えた。
水路の詰まりは、わずか二日で解消された。
驚いたのは、昨日まで怒鳴り合っていた上流と下流の住民が、作業を終えたあとに肩を並べて言葉を交わしていたことだ。
ほんの些細な変化かもしれない。しかし、領地の空気は確かに変わり始めていた。
三日目の夕刻。
私は配給の最終確認のため、南区域の路地を歩いていた。カルは北区域の担当。レオは倉庫での物資配置。
久しぶりに一人きりで歩く道に、冬の終わりを感じさせる濃密な夕焼けが落ちる。橙色と薄紫が溶け合う空。
夏の夕立のあとのそれとは違う、熱を欠いたまま色だけが燃え盛るような冬の絶景。
思わず足を止めて見惚れていると、不意に路地の奥から物音が聞こえた。
重いものを引きずるような音。それと、幼い子どもの声。
覗き込むと、十歳くらいの少年が、自分の体ほどもある大きな荷物を抱えていた。
中身は配給されたばかりの食料だ。
少年は私に気づくと、びくりと足を止めた。
「手伝いましょうか?」
「……いいです」
「でも、重そうですよ」
「平気です。おばあちゃんのところまで運ぶだけだから。おばあちゃん、足が悪くて歩けないんだ」
少年は少し迷うように視線を泳がせ、やがて私の顔をじっと見つめた。
「……もしかして、クラリス様?」
「ええ。食料がちゃんと届いているか確認に来たの」
「届いてますよ。今日、初めてちゃんと届いた。前は、いつも足りなかったのに」
「……対応が遅くなってごめんなさい」
私が頭を下げると、少年は不思議そうに首を傾げた。
「謝らなくていいですよ。だって、今日届いたんだから」




