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没落令嬢と冷徹騎士の契約結婚 ~正しさを捨てて、あなたを選びます~  作者: 猫燕


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30/47

30. 「私の領地のこと」

 部屋が、しんと静まり返った。

 窓の外で鳥が二声だけ鳴き、すぐに静寂が戻る。


「内部の人間……?どういうこと?」

「配給の現場を管理しているのは、古くから領地に仕えてきた者たちです。その中の誰かが、輸送の途中で一部を抜き取っている可能性があります」

「そんなはずはありません」


 気づけば、否定の言葉が口を突いて出ていた。


「あの人たちは長くこの家に尽くしてくれている。そんな裏切りのような真似を、するはずが――」

「『信用していた』から、盲点になっていただけだろう」


 聞き慣れた、けれど今は少しだけ疎ましく感じる声が扉の方から響いた。

 振り返ると、レオがそこに立っていた。いつから聞いていたのか、半開きになっていた扉の隙間から、彼はすべてを把握していたらしい。

 彼は迷いのない足取りで室内へ踏み込むと、カルに


「報告を続けろ」


 と促した。

 カルは緊張を隠せない様子で、三日分のデータや量の推移、絞り込まれた経路について説明を続ける。

 レオは黙ってそれを聞き、途中で一度だけ短く問いかけた。


「管理担当者は何人だ」

「四人です。いずれも先代の頃からの古参で……」

「名前と担当区域を書き出せ」


 カルのペンが走る。

 そこに並んだ四つの名前を見て、私は息が止まりそうになった。

 ――全員、知っている顔だ。

 エドモンド。父の代から倉庫を任されていた、無口で職人気質の老人。

 リナ。数字に強くて、いつも朗らかに帳簿をつけていた女性。

 あとの二人も、彼らの家族構成まで思い出せるほど身近な存在だった。


「……信じられません」


 絞り出すような私の声に、レオが温度のない言葉を被せる。


「信じる信じないは勝手だが、まずは確認が必要だ。事実を確かめる前に、感情で判決を下すな」

「でも、あの人たちはこの領地を思って――」

「長く仕えていた人間ほど、構造の抜け道を知っている。そして、やる。それが現実だ」


 どこまでも冷たい言い方。

 でも、それを完全に否定できる材料を、今の私は持っていなかった。


「……もし、そうだとしても。何か、のっぴきならない理由があるはずだわ」

「理由があれば、盗んでいいという理屈にはならない」

「そんなことを言っているのではないわ!」

「俺も同じことを言っている」


 レオは机から書類をひったくるように手に取った。


「カル。今日の午後に倉庫の実地確認は可能か」

「はい、すぐ手配いたします」

「俺が同行する。物資の実数と、記録を徹底的に照合する」


 カルが部屋を去り、重苦しい沈黙の中に私とレオだけが残された。

 レオはまだ書類の数字を睨み、私は彼の横顔を凝視していた。


「証拠を、押さえに行く」

「……ええ。分かったわ」

「お前も来るか?」


 一瞬、躊躇った。

 真実を知るのが怖かった。

 でも――。


「……参ります。私の領地のことですもの」

「なら、午後に倉庫の前だ」


 レオが書類を置き、立ち去ろうとしたその時。


「レオ」


 私の呼びかけに、彼は足を止めた。


「もし……もし、本当にあの人たちがやっていたとしたら。あなたはどうするつもり?」


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