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第20話 晴れ男の再来

 小さな客間の小さなテーブルに今、レイニルは一人の男と向かい合って座っている。

 レイニルは固まって下を向いてしまっている。目の前の客人に顔を合わせられない。

 その男は、オレンジの髪と金色の瞳。堂々とした座り姿にも圧倒されてしまう威厳の持ち主。腕を組みながら真っ直ぐにレイニルを見据える。


「オレは客人だぞ。顔くらい上げたらどうだ」


 レイニルは恐る恐る顔を上げるが、どうしても目を合わせられない。元夫であり、サンディ国の王であるシャインに。


(なんで? シャイン、私に何の用なの……?)


 シャインが会いに来た事に対して、嬉しいという感情よりも恐怖や疑問の方が勝ってしまう。

 ヴェルクにっとてはシャインは大切な顧客。シャインの、レイニルに会いたいという要望通りに客間に通すしかなかったのだろう。

 今日の天気が晴れの理由が分かった。シャインが来たからだ。雨女と交わっても晴れ男の能力はちっとも衰えていない。

 レイニルは冷や汗をかきながらも作り笑いで震える声を絞り出した。


「シャイン……様。何のご用でしょうか?」


 もう夫婦ではないつもりのレイニルは、他人行儀な様付けでシャインを呼んだ。すると気に入らなかったのかシャインの眉が急激に吊り上がる。

 その表情でシャインが怒っていると勘違いしたレイニルは恐怖で涙目になってくる。


(私を連れ戻しにきたの……? やっぱり雨女の能力が目的……?)


 それとも契約結婚の30日が経たないうちに逃げ出したから怒っているのかと、レイニルは様々な憶測を立てるばかりで発言がままならない。


「レイニル嬢。なぜ帰国したのか、説明してもらおうか」


 出会った頃のような他人行儀な呼び方に、レイニルの胸は激しく痛む。しかし自分勝手な行動を取った以上は、勇気を出して正直に話す必要がある。


「もう、愛のない結婚生活は辛いのです」

「は? あれだけ愛していると言ったのだが。足りんのか?」


 シャインの言い回しが冷たくて、どうしても言葉が詰まってしまう。これでは取り調べか尋問のようだ。シャインの威圧に完全に呑まれてしまう。


「だって、シャイン様は……温泉宿でローサお姉様とキス……してました」

「……は? オレが? ローサ嬢と? それは本当か?」


 太陽の瞳をまん丸にして驚くシャインは嘘を言っているようには見えない。いや、シャインは嘘を言わない男だ。

 シャインは腕を組んだまま、どこか虚空を見つめて、うーんと考え込んでいる。そして、ようやく腕を解くとレイニルと向き合う。


「あの夜は強い酒を出されて記憶がない。レイニルと間違えてキスくらいはしたかもしれない……な」


 シャインは素直にキスを認めた。そしてテーブルの上に両手をついて深く頭を下げた。


「そうだとしたら本当にすまない。だがキス以上はしてないと断言する。ローサ嬢に確かめてもいい。すまなかった、許してくれ!」


 そのシャインの態度は、王らしい威厳もプライドもない必死の謝罪。罪を認めた哀れな男にも見える。驚きすぎて今度はレイニルの瞳が球体になってしまう。

 しかし、たかがキスみたいな軽い言い方は納得できない。キスにしても交わりにしても、レイニルにとっては重大でシャインが初めての人なのだから。

 レイニルは思い切って少し膨れながら強気に声を張り上げる。


「シャイン様は、そんなに女の人にたくさんキスをする人なのですか……!」

「ん? するぞ」

「え?」


 あまりにも軽いシャインの返答に、レイニルの勢いが止まってしまう。シャインは何かに気付いたようで、急にニヤニヤしながらレイニルに顔を近付けた。


「ふっ、レイニル。オレは22の男だぞ。キスの経験なら山ほどある」

「なっ……!?」

「だが、それは過去の話だ。これからはレイニルだけにすると誓う」


 レイニルにとっては未知で初めての経験でも、シャインは女性との経験は何度もある。それは浮気でもなく愛がない訳でもない。人生経験だ。

 だからと言って、ローサとの1回のキスを見過ごせるはずがない。こんなに傷つくのは嫉妬しているせいだが、レイニルにはその自覚がない。

 ……その時、レイニルは思い出してしまった。以前、ヘリオスに強引にキスをされてしまった事を。


(私も言うべきなの……? 謝るべきなの……?)


 しかし、言ってしまったらヘリオスの身が危ない気がする。シャインの愛が本物であれば、嫉妬に狂ったシャインほど恐ろしいものはないと思える。

 レイニルが迷っていると、シャインが突然立ち上がった。


「よし、レイニル。オレの元に帰る気がないならオレにも考えがある」


 帰らないなんて一言も言ってないが……なぜかシャインは、また勝手に何かを思いついたようだ。

 まるで子供のような無邪気な笑いを浮かべてるシャインを見ると悪い予感しかしない。

 シャインはドアの横に控えていた侍女に堂々と命じる。


「ヴェルク殿を呼べ。今すぐだ!」

「は、はい……!」


 他国の王とはいえ、その気迫に押された侍女は急いで部屋の外へと出た。

 そして数分もしないうちにヴェルクがこの部屋にやってきた。いつもの黒スーツ姿だが、そこに笑顔はない。

 レイニルとローサが向かい合って座るテーブルの横に椅子を追加して、そこにヴェルクが着席した。


「……シャイン殿。修羅場に私を呼ぶなど何事ですか」


 ヴェルクは、シャインがレイニルを捨てたと思い込んでいたため、まさかここにシャインが来るとは思っていなかった。

 だが、来たという事はレイニルと縒りを戻そうとしているのだと予想ができる。

 話が違うじゃないかとヴェルクの漆黒の瞳で鋭く睨まれたレイニルは冷や汗が止まらない。


「オレは再度レイニルに求婚する。レイニルを落とすまで帰国しない」

「……どういう意味でしょうか」


 交渉術に長けているヴェルクは、どんな発言にも動じない。いや、決して動揺を表に出さない。

 しかしシャインはそれをも見抜いている。レイニルが城にいるという事は、ヴェルクがレイニルに求婚した可能性があると、そこまで読んでいる。

 略奪したのなら、略奪し返すまで。そして確実に勝てる勝負を挑むのが、この男。


「勝負だ。オレは30日以内にレイニルを落としてみせる」


 これはレイニルとの勝負と見せかけて、ヴェルクに対するシャインの宣戦布告。

 シャインはアメリア国でも堂々とレイニルを娶るつもりだった。

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