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第21話 愛ある政略結婚

 シャインの『30日以内』という期限は、レイニルとの契約結婚の勝負を彷彿とさせる。

 言葉も出ないレイニルとヴェルクを置いて、シャインは勝手に話を進める。


「そういう訳でな、オレもこの城で世話になる」

「し、しかし……サンディ国はどうするのですか?」


 さすがのヴェルクも慌て始めた。確かにシャインはサンディ国の王だ。国王が他国に長期滞在する理由としてはありえない。

 しかしシャインは涼しい顔をしている。


「ヘリオスがいる。なんなら王位を譲ってやる。あいつは王になりたいみたいだしな、ちょうどいい」

「なっ……!」

「ふっ……ヴェルク殿。オレがこの国に長くいると困るぞ。オレは晴れ男だからな。雨が降らないと困るだろう?」


 ついに晴れ男である事を自覚して武器にするシャインは無敵で無双。もはや脅迫に近い。


「それが嫌ならオレに協力しろ。レイニルはオレの妻だ」


 完璧に勝利の流れを作り出したシャインだが、ヴェルクも黙って終わらせる訳にはいかない。


「しかし、レイニル様のご意思はどうなのです?」


 ここで改めてレイニルに二人の男からの視線が同時に向けられる。ここまでレイニルは一切の意見を口にしていない。

 結局は、レイニルがどうしたいのか。誰を愛すのか。全てはその答えに委ねられている。


「私は……」


 レイニルはステラが言っていた言葉を思い出す。『自分が幸せになるように行動すべき』だと。

 自分にとっての幸せとは、雨女でいる事なのだろうか。

 レイニルが答えを口にする前に、調子に乗ったシャインが先に口を挟んできた。


「ふっ。レイニルはオレを愛してるぞ。温泉の時だって、あんなにイイ顔で……」

「わぁぁ!! シャイン~!!」


 レイニルは顔を真っ赤にさせながら、大慌てで大声を上げてシャインの声をかき消した。

 痴話喧嘩を見ているようでヴェルクは深いため息をつく。シャインを追い出す訳にもいかないので、とりあえず彼にも城の一室を貸す事にした。





 サンディ国では、国王と王妃が同時に不在となって数日も経つと、城ではシャインに対しての不信感が募る。

 王の仕事は自主的にヘリオスが代行しているが、意外とヘリオスは仕事ができるのでローサも側近たちも見直してしまう。


「あ、お母さん! シャイン様だよ!」

「こら! ちがうわよ、あのお方はヘリオス様よ」

「王様なの? かっこいい!」


 ヘリオスが城下町を通るだけで、国民からの声援が飛び交うようになった。

 僅か数日の露出で、ヘリオスは国民の支持を得た。口が悪いだけで、元から王としての資質はあったと言える。

 加えて、シャインの双子の弟であるヘリオスは容姿も似ている。このまま王に成り代わっても不自然ではない。


 ある日の晩、ヘリオスはローサを自室のバルコニーへと連れ出して夜景を眺める。


「良いムードですわね。私に何か大切なお話があるのでしょう?」

「さすがだな、ローサちゃん」


 淡い照明に照らされるヘリオスの整った顔は、以前と違って大人の逞しさを感じる。ヘリオスが変わったのではなく、ローサの視点が変わったのかもしれない。


「兄貴が国外に出てから、雨が降るようになった。やっぱり兄貴は晴れ男だったんだな」

「……じれったいですわね。本題は、それではないでしょう?」


 ヘリオスは床に膝をついてローサに跪いた。突然の事にローサのブルーの瞳が見開かれる。


「ローサちゃん。いや……ローサ。オレと結婚してくれ」

「…………!」


 すでに婚約者である二人だが、それは政略結婚の形式上でしかなかった。ヘリオスからの求婚はこれが初めてだが、ローサはその意図が気になる。


「どうして……ですの?」


 ローサはシャインと、ヘリオスはレイニルと結ばれるという計画で合意したはず。まさか本気で心変わりしたのだろうかと、ローサはヘリオスの心が知りたい。


「今なら兄貴を失脚させてオレが王になれる。ローサちゃんは王と結婚したいんだろ?」


 その通りで、ローサは『王』と結婚するのが目的でシャインである必要はない。そしてヘリオスも『王』になれるなら妃はレイニルである必要はない。

 ヘリオスが王になるなら、ローサはヘリオスと結婚するのが道理。

 だが、なぜかローサの心は強く痛む。道理を貫くヘリオスの真っ直ぐな優しさと気遣いが、愛とは違うものだと感じたから。

 ヘリオスがレイニルにキスをしたと聞いた時に胸が傷んだ理由。シャインにキスをされた時に嬉しいと感じなかった理由。


(私は……、ヘリオス、あなたを……)


 ローサは自覚してしまった。愛のない政略結婚のはずが、いつの間にか本気でヘリオスを愛していた自分の心に。

 自覚した途端に、急にヘリオスが愛しく映って恥ずかしくて、いつもの調子が出ない。本気で恋をすると、こうも弱くなってしまうのかと悔しい。


「私は、別に王でなくても……ヘリオスとなら結婚してあげても、よろしくてよ……」


 頬を赤く染めて恥じらいながらの上目遣い。普段のローサからは想像もできない可愛らしい返しに、さすがのヘリオスも心を射抜かれた。


「く……ローサちゃん、可愛いな……やべぇ、本気で抱きたい」

「どうしてもって言うなら……本気で愛してるなら許してさしあげますわ……」


 そしてヘリオスも、王になる目的が『兄のシャインを見返す』事よりも『ローサを娶る』という目的に変わっていた。

 王になって、兄を見返して、ローサを娶る。今、まさにその目的が全て達成される時の目前まで来ている。

 ヘリオスもまた、いつの間にか本気でローサを愛していた。


「あぁ、どうしても抱きたい。本気で愛してる、ローサ」


 ローサの返事を聞く前に、抗えない衝動のままにヘリオスはローサの腰を引き寄せて深く口付けた。

 シャインのキスの時とは違う、荒々しい本能的なキス。その熱さに、ローサはヘリオスの本気の愛を知って満たされていく。間違いなく心が喜んでいる。

 そしてヘリオスも、遊び感覚でレイニルにキスをした時とは違って、ローサの唇に触れる喜びがこんなにも幸福感をもたらす事を初めて知った。

 貴族である二人は過去に数々の縁談や恋愛経験があったが、互いが初めての本当の恋だった。


 互いの熱が離れると、無言でヘリオスはローサを抱きかかえた。

 お姫様抱っこの状態でバルコニーから部屋に入ると、そのまま寝室まで歩いてローサをベッドの上に下ろす。

 すでに婚約者である二人に縛るものは何もない。偽りの愛の政略結婚は今、本物の愛となって誓いを交わす。

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