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第19話 晴れ男の予感

 レイニルは城の一室を個室として与えられた。決して広く豪華ではないが、地下牢とは比べものにならないほど贅沢だった。

 しかし、ここは仮の部屋。おそらくヴェルクの求婚を受け入れたら彼と同室になる。

 小さなベッドに腰かけて放心していると、部屋のドアが数回ノックされる。

 そして入って来たのは、白いメイド服を着た中年の女性。ドアの前で一礼をして顔を上げる。


「レイニル様のお世話をさせて頂きます。よろしくお願いします」


 俯いていたレイニルだが、聞き慣れた声に反応して顔を上げる。遠目でも分かる。その見慣れた立ち姿は、よく知る人物だった。


「ステラさん!?」


 わざと名乗らずにいたステラは、レイニルの驚く顔を見て嬉しそうに笑っている。

 ステラは実家であるクラウディ家の地下牢でレイニルの世話をしてくれていたメイド。アメリア国では孤独なレイニルの唯一の味方である。

 レイニルも笑顔になると急いでステラの前まで駆け寄る。


「レイニル様、お久しぶりです。ヴェルク様のご配慮で、私がレイニル様のメイドに配属されました」

「そうなの……? 嬉しい!」


 この配属もヴェルクの策なのは分かりきっている。レイニルが過ごしやすい環境を整える事で婚姻をスムーズにするのだろう。

 確かにステラがいてくれるなら心強い。これなら、この城で生きていけるかもしれない。


(ヴェルク様は優しい人なのかもしれない……)


 ヴェルクの意図など知らないレイニルは、素直に心で感謝していた。長年の付き合いであるステラは、そんなレイニルの優しさを心配している。


「レイニル様。サンディ国での事、私に全てをお話くださいませんか」

「全てを……?」


 レイニルは言い淀んだ。シャインの事を語るのは自分にとっても辛い。だが、ステラはそんなレイニルを見るのが辛かった。


「レイニル様は今、お幸せそうな顔はしていません。私はそれが心配です」

「ステラさん……」


 ステラの優しさに久しぶりに触れたレイニルの目から堪えていた涙が溢れ出す。そんなレイニルの小さく震える肩をステラが抱きしめる。

 ステラは18歳のレイニルの倍以上の人生経験がある。年齢的には友より母親に近い。その心強さと包容力が、哀しみで傷ついたレイニルの心を温めて癒していく。


 レイニルは全てをステラに話した。サンディ国でシャインと契約結婚をした事、温泉で肌を重ねた事……そしてシャインに愛されてはいなかった事。

 全てはレイニルの主観であり、シャインの心理までが真実かは分からない。だがステラはそれも含めて理解している。


「私が思いますに、シャイン様の愛は本物です。私の口から申し上げる事ではないですが」

「そう……なの? でも、シャインはぁ……」


 レイニルは語りながら号泣して涙でぐしゃぐしゃになっている。確かにシャインは愛してると言ってくれたが、どう信じればいいのか分からない。


「レイニル様は、ご自身が幸せになるように行動するべきです。いつも国や他人の事ばかりをお考えでしょう?」

「私? 私は……だって、雨女だから……」


 国の役に立つ事でしか存在価値がないと、レイニルはそう思っている。するとステラは急に明るい笑顔になりレイニルの肩を抱いた。


「私には明日の天気が見えます。それが答えです」

「明日の天気……?」


 ステラが言おうとしている意味が分からないが、雨女の自分がこの国にいるのだから明日の天気は雨だと思った。

 いや、むしろ雨でなくては困る。この国に雨を降らせる事が自分の役割なのだから。





 そうして、次の日の朝。早朝にしては部屋が明るくて、レイニルはすぐに目が覚めた。

 アメリア国では雨の日ばかりを過ごしていたので、こんなに明るい朝は経験した事がない。


(もしかして……天気!?)


 レイニルは飛び起きるとベッドから下りて窓へと駆け寄る。両手でカーテンを開けてみると、眩しい光に目を細める。

 外には青空と照り輝く太陽。今日の天気は朝から見事な快晴であった。……しかしレイニルはガックリと脱力して肩を落とす。


(なんで……なんで晴れるの……!?)


 雨が降ってほしくない時に限って降るくせに、降ってほしい時には降らない。思い通りにならずに自分さえも翻弄する中途半端な雨女の能力。

 やはり晴れ男のシャインと交わった事で雨女の能力が消えてしまったのか、それとも自身も晴れ女になってしまったのか。


(私……本当に役立たずだ……)


 雨女ですらなくなった自分には存在意義がなく絶望しか感じない。

 その時、ノックもせずに部屋にステラが入ってきた。少し慌てた様子というか、緊張しているように見える。


「レイニル様にお客様です。お着替えになって客間までお急ぎください」


 ネグリジェ姿で呆然と窓の外を眺めていたレイニルは、ステラの方を見ると半開きの涙目で力なく答える。


「ステラさん、どうしよう。今日、晴れてるの……」

「それよりも、お急ぎください。お着替えを手伝いますので!」


 こんな時に朝から来客だなんて、何の用だろうか。アメリア国に知り合いはいないし、自分を売った家族が会いに来るはずもない。

 正直、レイニルは接客をする気分ではなかった。

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