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33.もし彼に、何かすることがあるのなら

 翌日の朝、カナタはわたしの作った純日本風の朝食を食べて、どこかへ出かけていった。

 朝食は、ごはんに味噌汁、卵焼き、鮭の塩焼きに梅干しと、旅館の朝食にさえ出せそうなほどスタンダードなものだった。


「次にご飯が食べられるのも、一週間後なのか。残念だな」

「出かけている間、何も食べないの?」

「食べる必要がないからね」


 カナタはそう言い、わたしたちは目を見合わせて笑った。


「久しぶりに聞いた、その言葉」

「食べたいとは思うけど。でも、やっぱり、誰かと一緒に食べた方が美味しいだろうから」


 そんな会話をした後、カナタは靴を履き、わたしに軽く手をあげて、玄関を出て行った。


 彼がどこに行ったのか、わたしは知らない。

 聞かないでくれ、と彼は言っていたが、わたしは想像をふくらませていた。

 もし、彼に何かすることがあるというのなら、それは例の逃亡した宇宙人に関することだろう。


 以前にカナタが、彼がわたしと会う前に行っていた、地球での逃亡者の調査方法を教えてくれたことがある。

 それはわたしからすればひどく非効率的で、なおかつ、不確実性の高いものだった。

 だが彼らには、人間からすれば無限に近い時間があり、どこかで何かを少しでも進めていれば、それはいずれ解決にたどり着くものだ、という認識があるらしい。


 彼はよく、高いところに登ったものだった、と言っていた。

 東京タワーにも、スカイツリーにも、通天閣にも、大阪城にも、京都タワーにも。

 もちろん日本だけじゃなく、他の国においても。高いところにある展望台ならば、だいたいどこにでも。


 そうしてカナタが見るのは、地球の景色ではなく、下で動いている人間たちだった。

 その中に、もし自分と同じように人間に擬態して潜んでいる宇宙人がいれば、直接に目視さえ出来ればカナタには感知出来るらしい。

 ある程度の距離の制限はあるが、展望台ぐらいの高さから見下ろす分には問題がない。


 ならカナタはものすごく視力がいいのか、とわたしはたずねてみたが、視力とはこの地球上でしか通用しない感覚だ、と返された。

 もちろん今のカナタの身体は人間的な視力も備えているけれど、そうじゃない、あくまで宇宙人的な感覚によってカナタはその宇宙人を探索しているそうだった。

 直接目視する、という条件は、たとえ話にすぎないのだそうだ。


 ただ、問題点もあって、建物や車の中に入っていると、カナタには感知が出来ない。

 わたしの感覚では、じゃあそんなの無理じゃん、逃亡している宇宙人の発見なんて不可能じゃん、といいたくなるのだけれども、カナタにとってはそうではないらしい。


 また、そもそも人間に擬態していないという可能性も考えられた。

 深海や火口の中といった極限世界や、あるいは人間の生活圏内だったとしても、どこかの廃屋でずっと静かにうずくまり続けているのかもしれない。


 もしくは、逃亡した宇宙人が技術の進歩や何らかの方法で、カナタに感知できなくなる術を手に入れているというのも考えられた。

 だがそういった可能性は、しばらくは考慮していないそうだった。

 いつまでも見つからなければいずれそれらへの対策を講じるが、今はとりあえず、出来るところからはじめる。


 一ヶ月ぐらい、毎日ある展望台に通い、一日中街を見下ろす。

 それで見つからなければ、また別な場所に移る。

 展望台が周辺になければ、駅前や商店街といった人通りの多い場所に陣取って、ただひたすら座って人の顔を眺める。


 翌日の朝がくるまでそうしていたこともあれば、あまりにも人通りが少なくなる場所では、目立ちすぎて警察から声をかけられたりもするので、人目につかない路地裏や公園の遊具などに入り込んで、気配を消し、朝になるのを待っていたこともある。


 わたしと出会うまで、カナタはほとんどの時間をそうして過ごしていたそうだ。

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