34.がんばれ逃亡者
時は流れ、人間社会は移り変わり、様々な流行が現れ、過ぎ去っていったが、カナタはほとんどその変化は気にとめなかった。
どうせわずかな間に消えていく、ただの揺らぎにすぎず、本来の自分の目的にも何ら関係ないのだから、気に留める理由がない。
カナタはこんな風に言っていた。
「この地球という惑星そのものについても、ぼくたちにとっては、何ら関心がないんだ。そこに星があり、生物が住みついていて、活動をしているのはわかっている。が、それをどうこうしようという気はない。調査する気もない。他の多くの星とそう変わるわけではないのだから。破壊する気もない。その必要はないのだから」
「人間が宇宙に進出しても、その認識は変わらない?」
「例えが悪いかもしれないけれど、トウコ、地球を庭の片隅にあるアリの巣みたいなものだと想像してほしい。そうしてそのアリの巣から、ある日、一匹、アリがひょこひょこと這いだしてきた。今までは地中の世界で完結していて、そんなことはなかったのに。そうして巣の近辺で餌を探している」
その話をしているとき、カナタはわたしの家のベランダを開け、庭を眺めていた。
「それを見つけた君はどうする? アリを踏みつぶす? 今後アリが大繁殖してこの家を食い荒らすかもしれないから、今のうちに薬でも使って巣を破壊する? あるいはアリとコミュニケーションを試みる? トウコ、君はそのとき、一体どうする?」
「何もしない。放っておく」
「そう、だからぼくたちもそうしている」
そうして人間には興味も持たず、ただひたすら非効率でかつ地道な調査を行っていたが、それでも宇宙人は見つかっていなかった。
その捜査に、何かしらの進展があったのだろうか?
わたしはそんな風に仮定をしてみた。
考えてみれば、カナタはわたしと共に生活をはじめたが、カナタ自身の問題は未だ解決していない。
彼には依然として逃亡者を探索し、追跡する責務がある。
むしろ、ここを生活の拠点として定めているのは、彼にとっては不都合なことかもしれない。
何しろ、目標がどこにいるのかわからないのだから。
つまり彼は、いまは一週間だけかもしれないが、今後、逃亡した宇宙人の追跡のために、さらに長い時間、外出したまま帰ってこなくなることだってあるかもしれない。
いや、帰ってくるのならまだいい。
もう二度と帰れない、といって旅立ってしまう可能性だってある。
ある嫌な可能性が頭をよぎる。
一週間、帰ってこないとカナタは言った。これまでにこんなことはなかった。
それは、もしかすると、探していた宇宙人が見つかったからなのかもしれない。
無事にその宇宙人を捕らえ、この地球での職務を果たしたとき、彼はどうするのだろう。
ここにとどまってくれるのだろうか。
その可能性はあるのかもしれないが、わずかな可能性にすぎなかった。
彼はあくまで、仕事の一部としてこの地球にいる。そうして彼本来の職務もある。
帰還せよとテリトリーに求められれば、彼だってそうせざるを得ないだろう。
いや、そうしない理由がないのだ。
カナタはどうしたいのだろう。
いま、ここにいる生活に満足しているようにも、わたしには思える。
何かを食べるのや作るのが好きだと言っているし、いまの彼は、地球の生活にも大いに興味を抱いている。
がんばってくれ、逃亡している宇宙人。
わたしはそんな風に心の中で応援をした。
それがカナタのためになるかはわからなかったけれど。
そいつがどんな姿をしているのかも、想像がつかなかったけれど。




