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悪役令嬢~千夜一夜~  作者: 旅人
2章 アリサ
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6.ネリーの強さ

 アジトを出て通いなれた薄汚いくねくねした道をテクテクと歩く。


 スラムの瘦せこけた人間は、地面に座り込み白く濁って酸っぱい自家製の発酵酒を飲みながら私たちを見る。すでに、顔馴染みとなった私たちに彼らは敵意も示さない。


 そんないつも通り細道を歩いていると珍しく、怒声が聞こえてきた。


「今月分の支払いしないっていうなら、ここで生活できると思うなよ」


「ま、待ってくれ。今月はちょっと金がねぇんだ。なっ、来月払うからよ」


「だぁほが、金がないなら通りに行って引ったくりでもしてこいや」


 がたいのいいチンピラがスラムに住んでいる男とその家族に暴行を加えていた。そのチンピラの言葉にスラムに住み着いた男は息をのむ。


 スラムの人間が表通りに出るだけで、巡回している騎士につかまる可能性があるのだ。


 住民票を持たない人間が引ったくりなどして、捕まった日には問答無用で腕を落とされる。


 金に困って犯罪をする胆力があるなら、スラムの中でも奪われる側でなく奪う側にいただろう。


 その男からしたら死刑宣告に近いのだろう。


 絶望で顔を青くした男に向かって、何がおかしいのチンピラ風の男達はゲラゲラと笑いながら、蹴りをいれる。


 蹴られている男は家族らしき女性と子供をかばいながら暴行を受けているが、家族もすでにボロ雑巾のようになっている。


「うーん。こういう光景って初めて見たけど、ネリーは見たことある?」


「はい。ここに来た当初は何度か見た……です。ブライアンが話を付けたって言ってたけどよく分からない」


 うん。正直、気分がいいものではない。だが、金を払うという習わしなら払わない方が悪いのだろう。


 裏社会の人間とかかわると面倒くさいし。


 そんな事を思いながら道を通り抜けようとするとチンピラの一人が私たちの前に立ち、通れないよに邪魔をする。


 そんなチンピラAの動きにチンピラBもニタニタ笑いながら寄ってきた。


「おぃおぃ、こんなところに上玉のお嬢ちゃんがいるぜ」


「げへへへ」


 なんともまぁテンプレの絡み方だ。


 面倒くさいと思ってネリーを見ると私をかばうように少し前に出た。


 魔法の扱いには自信があるが、近接戦闘が得意ではない私の事を思っての行動だろう。


 偉い。ネリー。


 心の中でほめる。


「なぁ、ちょっとお兄ちゃんたちといい事しねぇか」


 私もネリーも12歳だ。前世では間違いなく通報される事案である。


 この世界においても、まだ子供といわれる年齢であり彼らは変態なのだろう。


 そのまま無視をして歩きだそうとすると、チンピラAが近くにいたネリーの左手をつかむ。


「ほら、お高く止まってないで、一緒に遊ぼうぜ」


 ネリーは、どうしたらいいのか分からずに私を見てオロオロとしている。


 ネリーと目を合わせた私は首を描き切るしぐさをした。


「Go」


 戦闘訓練の時と同じ合図を出すとネリーにスイッチが入る。


 ジェイミーに徹底的に調教されたネリーの体は即座に戦闘態勢にはいったら容赦ない。


 一番近くにいたチンピラAをアッパーで宙に舞わすと、そのままチンピラBのみぞおちに正拳突きを入れる。


 一瞬で仲間二人を戦闘不能にしたチンピラCは泡をくったように逃げ出すが、ネリーからは逃げられない。


 ただ、強力な魔力の塊を放出し打ち出す。


 魔法というよりは拳聖の放つ闘気法に近い。普通に拳で殴る威力程度だが、ためがいらずにすぐに発動できるのがメリットだ。


 魔法使いであれば、一睨みで魔力の塊を拡散できるがチンピラ程度ではどうしようもなかったのだろう。


 逃げ出したチンピラCの頭を直撃し、殲滅が完了した。


 みぞおちを殴られたチンピラBは意識があるのか、震えながらも私たちを睨みつける。


「て、手前ら。俺らをレストン一家の者と知っての事か」


「いや、知らないよ」


 私の言葉にチンピラBの顔がゆがむ。


 一家の看板を背負ってスラムでみかじめ料をせしめている人間が、年端もいかない少女に叩きのめされたのだ。


 詫びの言葉と慰謝料をとらないと下っ端である自分たちの身が危うくなるのだろう。


 両手を強く叩くように合わせる。パチンと大きな音がした瞬間、私の魔力が両手を中心に広がる。


 魔力を拡散せて、霧のように薄く引き伸ばした魔力をチンピラにぶつける。裏社会でそれなりの地位にいたブライアンでも顔を青くした威圧だ。


 チンピラは顔を真っ青にして逃げ出していった。


「ちょっと、倒れている仲間つれていきなさいよ」


 私の声も聞こえない。


 うーん。やっぱりスラムやそこを根城にする一家とか邪魔だよなぁ。


 私も倒れている男達から意識をはずし、思考しながら歩き出す。


「あの……いいの……ですか?」


「いいのいいの。遊んでって言われたから遊んであげただけだよ。むしろ対価をもらいたいぐらいだけど勘弁してあげる」


 戦闘が終わりオドオドした態度に戻ったネリーに、私は顔の前で手を振りながニヘラと笑う。


 ◇◆◇◆


 スラムを抜けて城門付近に座る。相も変わらず無駄に高い城壁の内側は荷のチェックを終えた品物をがたいのいい男達が慌ただしく小分けにして運搬していく。


 その様子を大店の商店主らしき人物たちが商談をしながら見つめている。


「ヤング商会は、羽振りがいいですなぁ」


「コンラッド侯爵様の騎士団のおかげで、魔物の被害が特に少ないですから行商人たちの旅が順調でしてな。貸し倒れがなくて助かっています」


「ああ、噂のジェイミー様ですか」


「あの方の素行は褒められたものではありませんが、力はお示しになった。後は……」


「我々の商売についてもう少しご配慮いただければうれしいのですがねぇ」


「すべて力づくで事がなせる訳もなし。このままお兄様が後継者で決まりでしょうな」


 ジェイミーは騎士の先頭に立ち、魔物を退治しているため市民には評判はいい。だが、積み荷に対しては新たな通行税を課すなど増税を行ったため金持ちには嫌われている。


 ジェイミーの父であるコンラッド侯爵様は、事なかれ主義で先代までのやり方を踏襲していたが、ジェイミーには激アマで好きにやらせているのだ。


 さすがに税に関することまでジェイミーの独断ではないだろうが、主導したジェイミーに対して悪評が行商人たちの間で駆け巡っているらしい。


「ジェイミー様……いい事しているのに可哀想」


 ネリーが辛そうにつぶやく。


 庶民に対していい事は、金持ちにとって都合が悪いのだ。


「そうだねぇ。性急なやり方は馬鹿を見るかな。それでも突き進むのがジェイミーなんだろうけどね」


 あのごうまんな態度は人を引き付ける魅力にもなる。敵が増えているが、味方も増えているのだろう。


 最初の出会いが最悪の私ですら、彼女の存在は心に強く残っているのだから。


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