6. メイドさんと初めてのお料理 -後編-
ラストはご主人様視点になっております。
「――というわけです、ご主人様」
今朝の朝食は、数日前に焼き上げて保存していた食パンと、冷蔵庫にあったチーズ。
それからトマトのサラダに、牛乳です。
「ベーコンエッグって聞いていたのに、急遽冷蔵庫の残り物を集めたような朝食になったのは、それが原因なのね」
ご主人様は、うんうんと納得したように首を振ります。
「ご主人様、瑠璃さん。本っっ当に申し訳ありませんっ!! いったいどうお詫びをすればいいのやら……」
メイドとしての「やらかし」はこれが初めてでした。
いったいどんな風にしてこの罪を償えばいいのか……。わたしは不安になっていました。
ですが、ご主人様は笑って、
「気にすることはないわ。発火箱や発熱箱が爆発して、でもあなたたちに怪我はなかった。わたしにとってはそれだけで満足よ」
「ですが……!」
「あなたのせいではないわ、七菜。機械の不調――そうでしょ、瑠璃?」
「……そうですね。確かに七菜は料理に不慣れなところがありますが、それがきっかけで爆発が起きるとは思えません。さっきはつい怒ってしまいましたが」
「ほら、瑠璃もそう言ってるわ。だから気に病むようなことはないわ」
「……はい」
「でも、昨日まで普通に使えていた発火箱と発熱箱が、突然二つとも爆発するなんて――うふふ、七菜、あなた呪われているんじゃないのかしら?」
「の、呪われてなんていませんからっ!」
「あはは、冗談よ、冗談。でも――あなたは、料理の神様に嫌われている、それは確かそうね」
ご主人様は、グラスの中のミルクをごくりと飲み干すと、
「そうね、決めたわ。七菜、あなたは今後一切キッチンに立ち入るのを禁ずるわ」
「ええっ!?」
「偶然は同時に二つ起きたりしないわ。だからこれは必然。起こるべくして起こった事件。
これは推測だけど、今後七菜がキッチンに立ったら、また同じようなことが起こるんじゃないかしら?」
「私も賛成です」
ご主人様の提案に、わたしは何も反論することができませんでした。
図らずして、実家と同じになってしまったのです。
――キッチン立入り禁止という状況に。
そもそもわたしの「キッチン立入り禁止」はいつ頃から始まったんでしたっけ?
何がきっかけで、そうなったんでしたっけ……?
もしかして、あれも今と同じで――わたしが何かをやらかしたから?
そしてご主人様は、これを「呪い」と表現しました。
冗談っぽく言ってはいますが、なぜだか冗談のようには聞こえなかったのです。
「とにかく。今後の調理はこれまで通り瑠璃に任せるわ。七菜はそれ以外の業務で全力をして頂戴」
「はい……」
ご主人様には期待をされて、お給料だっていっぱいもらっているのに……。
わたしは決まり悪くて、しゅんと小さくなります。
ですがご主人様は、優しく微笑んで、
「料理ができなくても気にすることはないわ。あなたは調理人ではなく、メイドだから。
あなたの仕事は何? 食事を作ることかしら? いいえ、違うわよね?
七菜の仕事は――」
「ご主人様を満足させること……」
そうでした。
わたしとご主人様はそういう契約を交わしているのでした。
「そうだな。苦手は、別に直さなくてもいい。得意なところを伸ばしていけばいい」
瑠璃さんもフォローしてくれます。
「ええ、そうね」
「ご主人様に、以前教わりましたから」
「あら、そうだったかしら、ふふっ。
まぁ、とにかく……二人とも、『わたしの満足』、忘れないでね?」
「「はいっ!」」
ご主人様の優しいお言葉。
言葉で人を慰めたり勇気づけたりできるのって、「魔法」以上に魔法だと思います。
まだ半人前なわたしですが、ご主人様のように強い芯を持って頑張らなくちゃと思うのでした。
*
執務室へと戻ったわたしは窓を開き、夜空に浮かぶ月を眺める。
「『呪い』……ね。気配は感じられなかったけど、もしかしたらあの子――」
笑顔以上に、すごい才能を持っているのかもしれないわね。




