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エレオスブルグの診療所  作者: 天照
オピニオン×カンファレンス@王国騎士
31/36

カルテ29:レクイエム

厳かな空気が立ち込める中、クラウは苦笑いしたままいう事を聞かなかった。


「おいおい、こんな状況で『はい、そうですか』とはいかねぇだろ?・・っんだよ、個々の連中は全員グルだってのか!?」

「君・・”グル”とは度いう言う事かね?」


テロリスト一味の前に既に一触即発が起きそうである。


「待てクラウ!此処で言い争っても何の解決にはならないだろ?」


プラクシスが間に入って今にも出そうな手を制止した。


「けどよぉ、プラクシスっ・・教会がテロリストと癒着って前代未聞の不祥事だぜ!!?」

「おぉ・・!?テロリストとは何という言いぐさだ!?」


興奮した司祭は今にもプラクシスの出した手を乗り超えそうで正直にいえば讃美歌どころでは無いが、見兼ねたプラクシスによってお互い引き離される。


「まぁ、待て。このままじゃ双方感情任せの水掛け論になりかねない・・話を正そう。まず自分の名前はプラクシス、国王軍に所属している隊員だ。今回は王冠継承記念式典の最中にテロ活動が起こりうるという情報が入り、可能性があると判断した容疑者たちの身柄の確保を行う任務に就いている」


対立している割には紳士的な態度に腕の上にて張りつめていた熱は急速に冷めていくのがわかった。

プラクシスの視線にクラウは剣を下げるが、完全に鞘には納めた訳では無くいつでも再戦出来る様に握ったままである。


「ったく・・俺の名前はクラウ・・プラクシスと同じ部隊に所属していてテロリスト追っかけていたら此処に辿り着いたわけだ。・・早速だが納得の行く説明してもらおうか?言っておくが俺はプラクシス程気は長くない。時間稼ぎ等の素振りを見せたらすぐに叩っ斬る!」

「クラウっ!」


此処で喧嘩を売ってしまえばわざわざ自己紹介をした意味が無い事は勿論クラウにもそれは分っているが、国の精神的な秩序の教養を担う教会の異端な姿に怒りを隠せなかった。


「・・・私の名前はパストラス。このサントラグナ教会の司祭として遣わせている者だ。君たちが察しの通り、今同じ部屋から何人かが此処を通って行った事は認めよう」

「やっぱりか!?で、そいつらはどっちへ行った!!?」


クラウが再び剣に力を入れるが、パストラスは全く動じない。


「しかし、君たちはどのような情報を掴んだのかは分からんが大きな勘違いをしている」

「何!?」

「テロリストも何も、彼等こその継承記念式典を脅かす存在から国王を警護するために市民団体として動いている慈善集団にすぎん。彼等を容疑者として拘束するなど言語道断であるぞ」


プラクシスとクラウは顔を合わせて頭の中を整理した。


「パストラス司祭、それはどういう事なんだ?」


眼鏡の位置を正しながら顔を司祭側に戻すプラクシスにパストラスは一回咳払いをすると、手を広げて後方を指す。


「見なさい。讃美歌を歌っているシスター達は何故この状況でもこうして歌を辞めないのか?」

「は?」


クラウは喧嘩でも売られた直後の様に不機嫌そうな顔をしてシスターたちを睨みつけた。


「っおい、オッサン・・コレとあいつ等と何の関係があるってんだよ!?俺は未だアンタを信じた訳じゃないんだぞ」

「この者達は先日大学病院付近の事故で亡くなった関係者たちの死を弔って歌っているのだよ」

「・・だから何の関係が」

「この建物の裏を見てみなさい」


クラウが納得行かない様子でそっと横に付いている窓へ駆け寄り外を覗く。


「!!?」



――ザク――ザク――ザク――――



墓地にはスコップによって無数の穴があけられ穴ぼこの地下へと変わり、数人の大人が汗を拭いていた。


「今そこで穴を掘っている人物こそ、君たちが追っていたテロリストも容疑者と判断した集団だよ」


プラクシスも窓の外を覗き込むと目を閉じる。


「この微かな気配、間違いない・・さっき追った奴等と同じだ」

「馬鹿なっ!一体どうなってんだ!?」


「彼等は地域ボランティアとしてこうして人がやりたがらない仕事でも人手が足りなくなると直ぐに対応してくれる。今日も人手が足りなくて、こうして街の巡回と交互にやってくれているのだよ」

「え?」


半信半疑のクラウの頭は未だに混乱したまま、窓の外の集団を食い入るように眺めていた。


「では、あの地下道は普段からこういう作業様のツールとして使うために造ったのですか?」

「その通り、商店街組合ギルドの方たちは治安のために昼だろうが、夜だろうがすぐに地下道を使って駆けつけてくれる。ただ、この地下道は何百年も前から既に造られていました・・いや、正確には最初からこの様な地形だった場所に合わせて先代達が建設をしていったのでしょう。元々は戦乱の時代に民が逃げる場所として使われていましたからな」


”ガセネタに躍らせれた”


少なくとも彼らに戦う気が無いのは明確である。では、何故この様なタレこみに攪乱かくらんをさせられたのか?プラクシスは事の発端を必死になって思い出していた。

・・・

・・

『市民団体に扮したテロリスト集団が多数会場に紛れ込み、今回の式典の乗じて王の暗殺を企てている。命を懸けてでも王を御守りするのだ!』


(あれはオルグリオ隊長からの指示!・・待てよ、この前逮捕したあとに市民から抗議の嘆願書が殺到した事件も確か・・)


「おいクラウ、この前お前が捕まえた解体業者の逮捕命令は誰が出した!?」

「あぁ?・・あれはオルグリオ隊長だよ。それがどうかしたのか!?」


(間違いない・・だとしたら、俺達はオルグリオ隊長に良い様に誘導されていたのか?それとも更にその裏で糸を引いている奴がいるのか・・?)


『ビュンッ――』


「危ないっ!」


プラクシスが司祭を抱きかかえたまま祭壇から飛び降りる。クラウは何が起きたか把握できないまま戸口へ向けて剣を構えた。


「怪我は?」

「あぁ、私は大丈夫だが君の腕から血が流れてしまっているではないか」

「こんなかすり傷どって事は無い」


痛みはアドレナリンによって麻痺しているが、自身の中の警戒信号は未だに最大シグナルを発している。

歯を食いしばる視線の先には短剣が勢いよく突き刺さり、白地の壁にプラクシスの血をまぶした。


「クラウ、やはりこの建物の中じゃ俺の気配探索は上手く使えない。十分気を付けろ」

「へへ、お前の傷口の血が固まる頃には終わってるさ!」


『コツン・・コツン・・・』


「・・来るぞ!」


『ギィイイイ――――』


重く閉ざされていた扉がゆっくりと開く。


『コツン・・コツン・・』


足音と共にぼんやりとしていたシルエットは明確になって来た。


「・・やはりかオルグリオ隊長」

「・・・ほう?早速嗅ぎつけた様だな」


プラクシスは冷徹な笑みを浮かべる男を見上げる。


「何?どういう事だ!?」


クラウはイマイチ事情が呑み込めずに動揺して固まった。剣先もブレて動揺を隠しきれていない。


「クラウ、そのまま構えてろ!隊長は何かを企んでいる」

「ほう、盆暗ボンクラな連中の集まりかと思ったら少しは嗅覚の効いたネズミが潜り込んでいたか」

「どういうお考えかは存じ上げませんが、この命令は明らかに公務違反です。退却命令を」

「フン・・お前等、指図できる立場か?」

「!!?」


地下道を一緒に渡り歩いてきた兵士たちがプラクシス等三人を取り囲んだ。


「・・・何をした!?」

「意思の薄弱な連中への催眠など取るにたやすい」


兵士達は三人を八方向に取り囲むと腰から剣を抜きだし構えに入る。


「馬鹿野郎!お前ら目を覚ませ!!」


クラウの怒号も虚しく、抑揚の無い手元は明らかに殺意を向けて来た。


「お前等の謀反、その血を持って償うが良い」

「謀反もクソもあるかっ、説明をしろ!!」

「フ・・・」


尚も挑発的なオルグリオの態度にクラウの頭の血管は浮き出る寸前であり、ムシャクシャした怒りで肺筋の辺りに力がこもる。


「何がおかしいんだよ隊長!!」

「滑稽だとは思わんか?」

「は?」

「エレオスブルグの民は未だに教会のマヤカシにすがって、有もしない希望に依存を繰り返す。だが、今ここに居る連中は神でも何でも無い只の道化共だ!」


オルグリオは一歩、一歩近づいて両手を広ながら祭壇へ向けて罵倒を飛ばすが、それを聞いた司祭も横たわっては居られなかった。


「……だからと言って君は無差別な殺戮を始めようというのか!?」

「お前等が生み出す無価値な利己私欲が民自信を滅ぼそうというのだとしたら、私が堕落した夢から醒ましてやる」


(マズイ・・今攻撃されたら逃道も突破の打開策も全て潰されるぞ・・どうすれば良い!!?)


何時に無く焦るプラクシスをオルグリオは愚弄して嘲笑い、腰元に提げていた剣を抜き出して下ろす。


「やれ!」

「うぉおおおおおおおお!!!!」


次の瞬間、周りを取り囲んでいた兵士達が三人を串刺しにしようと一斉に駆け込んで来た。


(ヤバいっ!!)


二人は急いで防御用の構えに入るも、圧倒的不利な戦型を覆せないままに相手の絶望的な刃は数秒先の猶予も無い所まで先端を走らせる。


(此処までか!!?)


プラクシスは反射的に一瞬目を閉じてしまった。

・・・・

・・・


『ガシャァアアアアンン―――』


(……え?)


そっと目を開けると、クワやスコップが窓を突き破って三人を護るかの様に兵士達の前へと勢いよく突き刺さり動きを止めている。


「これは……どういう……!?」


「お偉いさん方が何仲間割れしてんだよみっともねぇ」


穴を掘っていたギルドメンバーが窓枠に付いているガラスの破片を振り払うと、冊子から勢いよく入ってきた。


「何だお前等?」


オルグリオが睨みを利かせる先に立ちはだかると斧やくわを手に取り構える。


「あぁ?お前等こそ何なんだよ!!?この讃美歌が聞こえねぇのか!?喧嘩なら余所でやれってんだよ」


そこには争いを恐れずに姿勢一つ変えず死者たちの弔いをする女神の様なシスター達が今も尚、使命に従い歌い続けている姿があった。


「その様な体裁事で死者たちは本当に癒されるとでも思っているのか!?」


オルグリオはシスターに剣を向ける。


「歌を止めろ」


切先は喉元にあてられているが、それでも歌を止め様とはしなかった。


「聞いているのか?歌を止めろ!」

「♪♪♪♪♪――――」


それでも、プログラムを組み込まれた人形を意識させる段取りで決して歌を止めない。

無視されて頭にきたオルグリオが手持ちの剣で首を跳ねようと振りかぶった。


「死ねぇ!!」


『ビュンッ――』


プラクシスは仕返しの様に自分の持っていた短剣を投げつけると手の甲に向けて投げる。


「くっ!」


強く握っていたはずの剣を落とし、手から血を流すオルグリオはプラクシスを睨みつけた。

怒り狂った瞳がより紅く染まる。


「お゛のれぇ……殺せ、全員殺せ!!」


錯乱したオルグリオに言われるがまま、操られた兵達は再び剣を持ち直し、殺法の構えに入った。

クラウはにやけて前へと出ると首の骨を鳴らして兵士達を見下す。


「俺のクラウという名前は本名では無くコードネームだ・・”骸”という意味のな」


そう言うと彼も殺人剣と呼ばれるタブー技の構えを取った。


「さっきは部下が操られているという私情で動きが鈍っちまったが、今度は違う。殺すという覚悟を決めているという事は死ぬ覚悟もできてるっていう事だよなっ!!」


するとプラクシスも前へと歩き出す。


「最後は軍人らしく名誉の戦死をくれてやる」


ギルドメンバーも二人のサイドを固める陣形で農具を武器にして構えた。


「街の平和の象徴は命に懸けても護らせてもらうぜ!」


十字架の元、鉛の弾かれる音が天窓にこだまする。

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