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その7

 三週間の間、おれの×淵○氏絞殺計画は事実上停止した。


 あの日の翌日、気まぐれで久しぶりに職安の窓口を覘くと充分な条件とは言えないが、何とか我慢できる求人があり面接を受けた。

 面接時の感じがよかったので、おれは愚かにも自分が採用されるものと思った。求人三人で応募者四人・・・。

 仕事に就け生活の見通しがつくなら、×淵〇氏を殺す必要などはない。おれの趣味は“人殺し”ではないのだ・・・。

 しかし、結果は最悪だった。

 求人数三人で応募者四人、予定とおり三人が採用されたのにおれは落ちたのだ・・・。

 何でおれだけが“不採用”なのだ?

 おれは前の職場でも真面目に、表裏なく働いていた。なのに、おれよりチャランポランな仕事をしていた連中が残り、おれが首になった!

 おれは口下手で、上司にお世辞一つ言わなかったせいに違いない・・・。

 そして、今度もおれだけが仕事に就けなかった!


 なぜ、おればかりが損をする?こんな世の中、絶対におかしい!


 改めて、おれはあの爺(獲物に敬称を付けるのは止めだ!“爺”で充分だ)を絞め殺すことを決意した。

 殺すしかないのだ!

 爺、恨まないでくれ。あんたが殺されるのはおれが悪いのではない。

 こんな事をおれにさせる、世の中が悪いのだ!

 

 おれは硬い決意を抱き、爺の大きな輸入住宅にボロ車で向かった。

 助手席には納屋で見つけた“トラロープ”(工事現場を囲む黄色と黒のナイロンロープだ)と、手袋を用意した。

 トラロープが納屋に何故あったのかは全くの疑問だが、兎に角、上手く行くときは全てが上手く行くものだ・・・。

 おれがあの爺を絞め殺すのを邪魔する者は誰もいない!

 おれの決して褒められる事でない、この計画の障害は何一つないのだ!

 

 誰か、何かおれをとめる者はいないのか?!

 

 おれは車を神社の木陰に隠し石段を登り、爺さんの家の様子を窺った。

 すると待っていたように、爺が家の中から出てきた。爺は庭の草花に水をやりはじめた。

 辺りには誰もいなかった。

 殺るなら今しかない、とおれは思った。



「何だ、君は・・・?」と、爺は振り返ると落ち着いて言った。

 爺はなるべくそっと近づいたつもりのおれ(手には手袋をし、ズボンのポケットにはトラロープを忍ばせていた)に、すぐに気づいたのだ。

 いきなり声をかけられたおれは、爺の何倍も驚いた。

 その上、爺はおれがもっと驚く言葉を続けて言った。

「そうだ、君は木×○和ではないか!昭和六十×年T中学校卒業、いや、平成に入ってからか?

 いかん!記憶が曖昧だ!私も少しぼけてきたか。


 それで、元気か?

 今、何をしている?

 君は自分の失敗を、他人の所為にする悪い癖があった。あのままの性格では仕事も上手くいかないだろう・・・。

 世の中、この不景気だ。失業中ではないか・・・?」


 爺の言葉でおれの中で、かすかに残っていた歯止めが完全に外れた。


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