その6
「お客様・・・」あの男がおれに声をかけてきた。
おれはいつの間にか、自分の世界に入り込んでしまったようだ。
「分かった」と、おれは言った。「でも、差し当たり家を建てる予定はない。でも、この窓は面白い。今、おれが住んでいる家、築ウン十年の家だけれど取り付けはできないのか?」
「勿論、可能です」と、男は言った。
「どれくらい掛かるのだ?」と、おれ。
「お部屋はインターネットが出来ますか?」
「それくらい出来る」と、おれはムットして言った。
「それでしたらこの窓が約三十万程度・・・。
それから、当然、お部屋の改築が必要になります。お家の状態にも寄りますが、古い日本家屋となりますと二十万程度は必要かと?!
計五十万円は必要になります!」
「五十万・・・」おれはオウム返しに言った。無職のおれにはとても無理な金額だ。そんな金を使ったら、一回も使わないうちの飢え死にする事になる。
おれは思わず肩を竦めた。
それでもおれは言った。「考えておこう」
「すみません」と、男が言った。「お所と、お名前を書いて貰えませんか?」
おれは再び肩を竦めた。でも、男が差し出したボールペンを素直に受け取った。
おれは気が小さくて、結局、人のいいなりになってしまう・・・。
それで、昔から損ばかりしている・・・。
それでも、おれは適当に住所を書き(警察が不審者の聞き込みにくることがあるかも知れない。なにせ、このモデル・ハウスはおれの獲物の棲家から五百メートルしか離れていないのだ)、モデル・ハウスを出た。(嘘の住所・名前を書く客なんて、いくらでもいると思う。)
兎に角、殺人を成功させる(捕まらない)ためには目撃者をつくらないことだ!
モデル・ハウスを出ると雨はやんでいたが、あたりはうす暗くなっていた。
おれは今日の人殺しは諦めており、おれのボロ屋に向かった。
おれは、楽しみは後に残すタイプなのだ。
それにしても、あの“バーチャル・ウインドウ”が酷く気になった。
今のおれの状況ではとても買えない事は分かり切っているが、酷く気になった!
何故だろう?
酷く気になった・・・。
そう言えば、あの男何か大事な事を言っていたような気がするが、おれは別の事を考えていて聞いていなかった!
あの時、あの男は何を言っていたのだろう?思い出せない・・・。




