その5
「その窓を」といきなり声をかけられ、おれはそれこそ飛び上がるほど驚いた。
声のした方を見ると若い男が開けっぱなしの扉の向こうに立っていた。
「すみません。驚かせてしまったようで・・・」と、男が言った。
「いや、何でもない」と、おれは言った。
「その窓を見られると、皆さん驚きになられます。
この窓を私どもは“バーチャル・ウインドウ”と呼んでいます」
「バーチャル・ウインドウ?」おれはオウム返しに言い、改めてその窓を見た。
そして、また驚いた。
ついさっきは荒れた海が見えたはずなのに、今は池と松がそこにあった。日本庭園だ。
池には沢山の鯉が泳いでいた・・・。どう見ても、名のある日本庭園だ。
これはどう言うことだ?
おれは夢でも見ているのだろうか?
「これは私どもDハウスと電気メーカーのI社が共同開発した“バーチャル・ウインドウ”でございます」
「・・・」
男は黙ってそのガラス戸に近づき、ガラス戸の右側の小さな扉を開け(男がそれを開けるまで全く気づかなかった)、中のテンキーの一つを押した。
すると日本庭園は消え、駐車場(おれのボロ車も見えた)と国道が見えた。
それは窓に見えたが、縦長のディスプレーだったのだ・・・。
「このガラス戸は我がDハウス最大の特徴であります三重ガラス戸ですが、さらに真ん中のガラスに特殊シートを張ってあります。
OFF状態のときはこの様に普通のガラス戸ですが、スイッチがONされますと先程見ていただいたようにディスプレーになります。
バーチャル・ウインドウをDハウスとI社の共同出資会社バーチャル・ウインドウ社のサイトに接続しますと、まさにウインドウの向こうにバーチャル世界が広がるわけです。
自分の書斎にいながら窓の向こうは京都の有名寺院の庭園だったり、また何処か田舎ののどかな水田が広がったりします。外国の風景のこともあります。
また、バーチャル・ウインドウは窓の外のカメラとマイクと一体になっていますので、風景だけでなく音も聞こえます。
自分の窓から実際に見える風景がサイトを通して、世界中に中継される場合もあります。
窓の風景は初期設定では、十五分で次の風景に変わります。
現在、バーチャル社のサイトには、世界中約千五百の窓が登録されていますが、ユーザーは自分のお気に入りの風景に固定することもできます。この場合は権料が、その窓の所有者に支払われます。
ごく稀な話にはなりますが、ちょっとした小遣い銭を稼ぐ方もおられます。
実は・・・」
男の説明はくどくど続いていたが、おれは別の事を考えた・・・。
“世の中にはこんな窓をつけた書斎で、自分の趣味を楽しむ事ができる連中がいる。その上、それで小遣いを稼げるとう言う。
こんな窓が自分の部屋にあったら、いい気分転換になるだろう。これがあったら、おれも連続殺人なんて計画はしなかったろうに・・・”
面白くない、何もかも面白くない。殺るしかない。
殺人を完璧に成功させる、捕まらないためには目撃者をつくらないことだ!




