その4
モデル・ハウスの玄関を開け中に入ると、若い女が事務的な笑いを浮かべ言った。
「いらつしゃいませ」
「ちょっと見せてもらうだけだ」おれは言わなくてもいい事を言った。
「構いません、どうぞ」と、若い女は言った。
女が何か言いかけたが「案内はいい」と、おれは先手を打った。「勝手に見る」
平日の午後ということもあってか、客の姿はまばらだった。
それでもダイニング・キッチンで三十代半ばの夫婦(つまり、おれと同じ年代)が、中年のいかにもセールスマン風の男に質問していた。主に妻の方が熱心に質問していた。彼女のお腹は明らかに膨らんでいた。
彼等はおれとは違い“ひやかし”ではないだろう。
彼等はいかにも幸せそうだった。
つくづく、この世は不公平だとおれは思った。
おれは気を取り直し、和室やトイレ・浴室を覘いた。
築数十年のぼろ家の我が家のトイレ・浴室とは大違いで、最新設備で綺麗に掃除されっていた。
もっとも我が家のトイレ・浴室が古いのは兎も角、汚れ放題なのは誰のせいでもない、このところまともに掃除をしていないおれのせいだが・・・。
二階は寝室が三室と書斎、それに椅子とテーブルが置かれ家族が一緒に寛ぐスペースがあった。
小さな本棚が置かれているところを見ると、ここで皆で一緒に“お勉強”でもするのか・・・?
大きな寝室にはダブルベッドがあり夫婦の寝室、あと二つにはそれぞれベッド一つ。子ども部屋ということだ・・・。
まるで絵に書いたような家族と、そこで演じられるドラマのような幸せ・・・。
を、想定した間取りか?
それから書斎。
書斎の真ん中には大きな机が置かれていて、その上には二十インチ以上はあるディスプレーのパソコンが置かれていた。そう言えば、子ども達の机の上にもパソコンが置かれていたし、台所の片隅にもパソコンのディスプレーがあった。家じゅうどこでも、インターネットが利用できる環境にあるということだ・・・。
ところで、絵に描いたような幸せな家庭の旦那はここで何を、何をインターネットで見るのだろう?
・・・。
まぁ、そんな事はどうでもいい。おれには関係ない事だ。
おれは座り心地のいい椅子に腰かけ、そんな取りとめもないことを考えた。
ふと目をあげると、縦一・五メートル、横一メートルはある一枚ガラスの向こうに海が見えた。
それも雪が舞い、ひどく荒れた鉛色の海だ!かすかだが、荒れる海の音も聞こえる。
そんな馬鹿な!
ここから海までは二十キロはあるはずだ・・・。
それに、今はまだ雪の季節ではないし、それのその景色は何処か日本の海の風景ではないような気がする!?




