幕間8
女の子の手が、ひらひらと目の前を行き来する。まるで蝶が舞うように、それで彼は思考の渦から顔を上げた。
「具合が悪いんですか?」
「ああ、違う。なんでもないんだ。なんでも……」
少女はじっと自分を見上げている。しかし、その瞳が完全に合ったことはない。最初は目線を合わせることに戸惑いがあるのだろうと考えていた。彼女もまた奴隷だったのなら、人と目を合わせられないくらい嫌な目にあっていても不思議ではない。
しかしそれはすぐに自分の思い違いであるとわかった。シャヴァラに抱き抱えられた時も、エノクの顔を覗き見る時も、彼女の視線は確かに二人を見つめていた。ガレアスと戯れている時ですら、その鋭い双眼に微笑みかけていた。
彼女は自分とは目を合わせてくれない。嫌われている? それとも苦手意識を持たれている? あるいは、兄と言う存在に少し照れているのだろうか。嬉しいのは三番目。しかし、どれも違うことに彼はもう気づいている。
今も彼女は真剣に彼を心配していた。頑張って、感情を読み取ろうとしている。
その姿に胸が痛んで、気づいたら両腕が彼女を抱き寄せていた。驚いたように、少女の顔が彼の方へと向く。
――合わせようとしないのではない。合わないのだ。合わせたくても、合わせられないのだ。
その事実に気づいた時、彼女の瞳の意味を知る。金に輝く月の瞳。虹彩のような眼状紋。それはまさしくあの国の、過去を覗いた天球の細かな模様と一致する。
『天眼は三つある』
その事実が恨めしい。
この運命が、恨めしい。




