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第十五章 奇縁にて3

 「少し目を離しているうちに、どうして我が愛しの孫娘が、こんなちょび髭の男に変わってるのじゃ?」

 ぎりりと目を鋭くし、シャヴァラはバトンに難癖をつけるように睨みを効かす。先ほどまで酒気を纏っていた顔はすっかり怯えで白くなっている。

 「こ、この別嬪さん、旦那のお母様でいらっしゃったりします?」

 困惑した様子で尋ねれられ、首を横に振る。「ですよねー」なんて愛想笑いが洩れている。

 「にしても驚きました。あなたがオーバル曲芸団の服飾を担当しているだなんて。大出世なんじゃないですか?」

 「お、おう! そうなのよ! 旦那から余計にもらった駄賃で色んなとこの布をかき集めては服を作って売ってを繰り返してたらたまったま、オーバルさんの目に止まってさ。是非我が団員の衣装の新調を頼みたいって言われちゃってー。俺としても初めてよこんな大仕事」

 その衣装のお披露目公演が昨日だったらしく、公演終了後、オーバルたちと飲みに行って気づいたら朝。良い気持ちで宿に帰宅する途中に昨夜見かけたエノクが横切ったものだから、慌てて呼び止めた、というのが顛末らしい。

 「俺、エノクの旦那にはまじ感謝しても仕切れない恩を貰っちまった。あの時の大金がなけりゃあ今の俺の成功はない!」

 「ほーお。お主そんな大金持っておったのか?」

 ギロリと睨まれる。

 「長旅の予定はなかったんだ」

 だから端金だと渡した。まさか王都まで行くことになると知っていれば、あの時の行動も変わっただろう。

 「……まあ良い。金でこれほどの人脈を得たのならこれ行幸。下手に商人を買収するよりも余程信頼はできるしな」

 「ええ! 任せてくださいよ! バッチリ俺が旦那方を送り届けてやります! ……つっても、俺は大きな荷車は持ってないんで、旦那が入ってもギリギリ隠し通せるサイズの荷車はオーバルさんに頼るしかないんですがね。ま、あの人なら気前よく貸してくれますよ! なんせ魔物も犯罪者も団員に迎え入れちゃうような方ですからね」

 「うわ、あの噂って本当なんですね」

 アオノがポツリと呟く。あの噂とは情報収集の果てに掴んだもの。ガレナス曲芸団のほとんどが訳ありの過去を持っており、犯罪者や孤児、指名手配犯まで混ざっているというものである。それが本当だとすれば王都の検問は別の意味で危ういのでは。そんな疑問を口にするが、店主はあくまで軽い。

 「ダイジョーブっすよ。オーバル旅芸団は貴族連中からも人気が高いんです。例え反社が混ざってようが下手に処罰しようものならその連中が黙っちゃいない。だから、検問もオーバル旅芸団に所属しているという証拠さえ提示すれば良いんです」

 「歩くブラックボックスじゃないですか」

 「違いねえ」

 「それより」エノクの低い声に場が締まる。「王都に行く目処がついたのならノアとガレアスを探しに行くぞ」

 「無論じゃ。おい服飾係、お主も付き合ってくれるよな?」

 「そうっすね。小さな女の子と犬コロが迷子ってのはちと心配っすもんね。手伝いますぜ」

 「じゃと、人手が増えてよかったな――。あれ? あやつどこへ行った?」

 キョロキョロと視線を彷徨わせるが、先ほどまでいたはずの影がない。

 「もう探しに行っちゃいましたよ。相当心配みたいです」

 アオノが微笑ましげに肩を竦め、エノクがいなくなった方面を見つめた。




 「なあなあ、ガレアス教えてくれよ。お前ってどこから来てるんだ?」

 わふん? 首を傾げれば、少年は苛立たしげに首を振る。

 「違う違う。どこの森かを聞いているんだ。だってお前、よくいなくなっちまうだろ? 行き先わからないと、お前より大きな魔物に襲われた時に助けられないじゃないかよ」

 自分が倒されるような魔物に、お前みたいな小男が勝てるわけないだろう。そんな意味も込めてジト目で見返せば、彼は不貞腐れたように頬を膨らませる。

 「そりゃよ。俺は弱いけど、手先は器用なんだ。どんな凶暴な魔物に襲われてもへっちゃらな防具を作ってやるよ」

 無理だね無理無理。首を振る。

 「なんだと!? それなら試してみてよ」

 そう言って少年は鞄の中を漁り出す。ヘンテコな石やら、金具やらをばら撒いて漸くお目当てのものを引き出した。

 銀色の腕輪だ。形は少し歪だけど、真新しい光沢を放っている。

 少年はガレアスの前足をひょいと持ち上げると、その腕輪を通す。関節を曲げないと落ちてくるような代物で、正直邪魔である。

 「これはただの腕輪じゃないんだ。魔力石でできた腕輪。ガレアスよく雨降てるだろ? 魔力量が減って、変なところで倒れてたら大変だしさ。これあれば百人力だよたぶん」

 ガレアスは魔物ではなく精霊である。つまりその魔力量はほぼ無尽蔵であった。しかし、そんなことは知らない少年は誇らしげにへへと鼻の下をかいてる。

 「俺さ、そろそろここを離れるんだ。スッゲー人とスッゲーことしてくるんだ! でも、そしたらお前寂しいだろ? だからこれはお守り。俺がいなくても元気でいれるようにってね」

 ガレアスはその言葉の意味が理解できなかった。そうしてまた言いつけを守ろうかな、という気になって森に戻って数日後。また飽きたからと街を訪れた。

 少年はいなかった。数日、数週間と待ってみたが、少年は来てくれなかった。

 四足の足を引き摺るようにして森に戻る。

 ガレナス曲芸団の異例の看板モンスター。その第一号は、ひっそりとその座から退いた。

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