幕間6
「ちと良いか」
扉を押し開いた先には部屋などなかった。あるのは巨人に押し潰されたように瓦解した壁と、その破片。上を見上げれば星空が静かに瞬いている。
崩れた壁の一箇所をベンチ代わりにして、カリムは星を眺めていた。その横に無遠慮に腰を下す。
「まだ良いなんて言ってないのに。強引ですね」
「なに、こうして旧友と会えたのだから多少の押し掛けくらい許せ」
そうですね。横顔のままカリムは答える。翡翠の左目は魅入られたように空を見つめて離さない。
「私に聞きたいことがあるんですよね」
「お見通しか。そうじゃよ。お主に聞きたいことがある」
シャヴァラは神妙な表情を作ると。
「先の奴隷を回収しているという一件、お主はどう見ておる」
「どうもなにも、国王さんが関わってるんだろうなーって」
「そんなフワフワした理由は聞いとらんわ。どうしてあやつらがそんなことをしているのかということじゃ」
「わかってますって」ヘラヘラと微笑み、そして急に頬を引き締めた。メガネをくいと持ち上げる。
「私の見立てでは、あれは奴隷を回収すること自体が目的ではありません。いえ、もしかたらそれもある意味では目的と言えるかもしれませんが、一番は違う」
遠くにあるものを見ようとするように、その目が細められた。
「あれは、探しているのでしょう。この世に人として存在していなかった何かを」
「……それはやはり」
言いかけて、否定するように緩慢に首を振る。
「私からも一ついいですか」
頷くよりも先に言葉を繋げる。
「あの子の眼はそういうことなんですよね」
「そうだな」
「へぇ、なら生きてたってことなんですね。よかったじゃないですか」
「戯け」焦燥感を感じる声音。「彼女が眼を引き継いでいるということは、あやつも死んでいるということじゃ。あれはそういう眼じゃろ」
「そうですけど、あいつらに殺されてなかったってことでしょう? 上手く逃げおおせてどこかで幸せに暮らしてましたって」
「……どうじゃろうな。エノクに会う前から奴隷として生かされていたようじゃし、寧ろ地獄のような人生を歩んでいたんじゃないか」
「はぁ、生き地獄ですか。それを救うのが神様ってやつだと思っていたんですがね。結局のところあれは見てるだけなんですね」
会話に飽きてきたのか、足をプラプラさせながら言う。どちらともなく黙りこくって空を見上げる。
光の粒子を散りばめた夜空は皮肉なほどに美しい。うっすらと細く浮かんだ月は、嘲るように彼女たちに微笑んでいた。




