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幕間5

 これはアオノが天球を覗き込んだ時の話である。

 侵入者と交戦するつもりで飛び出してしまったエノクを気掛かりとしながらも、アオノはそれ以上に興奮する気持ちを抑えられないでいた。

 天球を覗けば、長らく失っていた記憶を取り戻す事ができる。例えそれがどんなに過去であっても、今のふわふわした自分からは脱却できるのだ。

 「とりあえず、お主が記憶を失った直前の出来事を覗こうか。大体で構わんから場所を教えてくれ」

 シャヴァラに指示されるまま場所を伝える。彼女は了解したと小さく頷く。

 白い光が体を包む。意識が浮遊するような、不思議な感覚に襲われる。固く目を瞑った。

 浮遊感が収まったところで、おずおずと瞼を押し上げれば、そこにはいつかの畦道が写っていた。まるで自分がその場所に立っているような視座だったが、下を向いても爪先すら見えない。幽霊はこんなものかもしれない。

 『時期が曖昧故、イジるから待てよ』

 反響するようなシャヴァラの声に首肯する。基本的に何もない道だが、時折猛スピードで人影やら動物の影やらが映り込んでは地平線へと消えていく。映像を知って入れば、早送りと巻き戻しを繰り返しすように、慌ただしく視界が移ろう。

 『む?』

 シュルシュルと時間が遡る。他に人間らしい影はない。

 不意に馬車が通る。見覚えのある二人の男が何言かを話して去っていった。

 『?』

 もう一度巻き戻す。風景がゆったりと動き出す。といっても視界に広がるのは風に靡かれてさらさらと揺れる草であったり、どこからともなく飛んできた小鳥であったりと、実に長閑なものであった。

 アオノは地平線のあたりをじっと見つめていた。自分から見て左を頭にして倒れていたのであれば、順当に行けば右側のどこからか出現するに違いない。

 そう思って凝視していた。しかし、その予想はものの見事に外れることとなる。

 またあの馬車が通る。何度巻き戻し再生しても、自分の姿は映らない。しかし、馬車から降りてきた男はまるでタンカーを運ぶように何かを馬車へと押し入れている。

 映らない。映らない。

 何度繰り返しても、少し時間をずらしてみても、そこにアオノの姿はない。

 そうして、何度目かの馬車を見送った。

 「あ、ああ……」

 声が漏れていた。頭が酷く痛かった。そうか、そうかと何かが奥底で狼狽する。

 『アオノ、お主――』

 (そうだ、俺は――)

 そこでぷつりと意識が途絶えた。

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