第六話 虎王夢
夕暮れの赤い残光が梁の裂け目から斜めに差し込み、血の霧と埃を金色に染めている。
床板は砕け散り、黒い血溜まりが広がり、死者の肉片と内臓が無造作に散乱していた。
果てまで見れば壁は巨大な爪痕で抉られ、そのせいで冷たい風が吹き込み、鉄錆と腐肉の臭いが濃く淀む。
そこへ一つの白が境界線を作り出している。
鄭傑の息が、荒く、白く、凍てつくように吐き出されていた。
左肩の傷口から血が絶え間なく溢れ、袖を重く濡らしている。
「...!」
痛みはすでに鈍く深いものへと変わり、指先の感覚をわずかに奪っていた。
それでも彼は包丁を離さない。
離すわけにはいかなかった。
掌に染みた血と油が混じり、柄が滑りそうになるたび、親指の腹で強く押しつける。
恐ろしさを忘れさせるほどの巨大なそれを相手しているからだ。
当のそれは、今、五足大長虫は、ゆっくりと体を起こした。
巨躯が木造のか弱き足場を軋ませ、そのせいで当然、天井の残骸が粉塵となって降り注ぐ。
背中の肉突起は一本が半ば引き裂かれ、緑の膿を垂らしながらも、異様な生命力で再生を続けている。
しかし、包丁の斬撃であれほどの傷を負うとは思いにくいため、鄭は喜びも見せずに思考し、わざと割いては攻撃するではないかと酷く困惑し、警戒をする。
(む、鞭みたいに叩きつけてくるのか...?)
だが観察をしているのは彼だけではなかった。
無数の小眼、哺乳類にあっていいわけのない、醜い小さくある目たちが蠢き、粘液を糸引かせながら鄭傑の全身を舐め回すように視線を這わせる。
黄金の主は冷たく、怒りというより、獲物を値踏みするような残忍な光を宿していた。
この化け物は、ただの虎ではない、まるで知性を持つようにして、傷を負わせた鄭には、酷く慎重に観察をした。
復讐でも目指すように、異様な視線。
その光を寄せるような黄金色の大きな両目をで見渡し、スポットライトで照らすように鄭傑の視界を奪う。
黄金の光、その目。黄金色にも見える毛並み。
ここじゃなければ、そうだ、動物園とかであれば鄭はきっと、自分はそれに見惚れていたかもしれないと思った。
不思議と思うと同時にも思った、敵の力か、はたまたは腕が傷を負ってしまったせいか。
腕の傷。
これは純粋なる力を目前にしての敬意か。
彼はなぜかそう思った。
そして大きなそれにあだ名をつけて呼びたくなってしまう。
黄金色の主、山の君などと。
きっと百年を超えては生き、見たもの全てを貪り、再生と成長を繰り返してきた真の怪物だ。
動物園のそれとは違う飢えた野生。
人間など、所詮は柔らかい肉片に過ぎない。
ならば手にあるこの鉄の板しかない。
だから話は戻る、そう、やはり俺は包丁を捨ててはいけない。
そうは強く思うのであった。
妄想好きだが、俺は求道者じゃねぇんだよなぁ、絶対生きて帰って寝る、五体健全のままに。
強く思う。
ゴン!
怪物は吠える、そのいかなる獣よりも獰猛で巨大な牙を見せる、やつの武器を見せびらかすように。
(...人間が生まれてから...マンモスだろうと何だろうと勝ってきた……しかもたかだが石だ、石器だ、なら...こいつだって大きかろうが、俺には鉄がある、勝てる...勝てる!)
言い聞かせるように繰り返す。しかしそれでも緊張は減らずに唾は溜まり、その度に喉の奥へとごくりと唾飲みし、足をわずかに後退させたり、横向きに引いたりした。
逃げ場は狭い。背後は崩れた壁と下は死体の山、正面は死を運ぶ巨影。
一瞬の油断が、即座に喉を食いちぎられる絶命へと繋がることを、本能が告げている、そんな場面。
サラリーマンが到底対抗できるはずもない、死ぬに決まっている。
怪物が動いた。
ゴン!
前足が床を抉りながら踏み込み、巨体が疾風となって迫ってくれば、まるで腐った肉のような匂い、何かの硫黄を混ぜたような温かい息が、顔を熱く焼くように寄せてくる。
「ッ……!」
ガキィン! 硬質の衝突音が耳を劈く。
爪の威力は凄まじく、包丁ごと体が吹き飛ばされてしまい、森まで吹き飛び、樹々をぶち破りながらに背中を強く打ちつけては、肺からどんどん空気が絞り出された。
窒息のせいか、痛みのせいか、衝撃か、それとも全部か、一瞬にして視界が白く染まる。
当然前が見えない、だがそれより最悪なのは
(……死ぬ…………!)
足が痺れる、まるで感覚がない、きっと背中を打ち付ける時に折れてしまった。
予想通り俺は死ぬのか、嫌だ。
しかしその瞬間、何かが左肩の傷口を通じたような感覚がし、思わず歯を食いしばった。
「なっあ!」
いつの間にか包丁を手放してはそれが怪物の前足の内側を、強く叩いていた。
気づかないうちに。
ドンッ!
鈍く重い打撃音。
ただの斬撃ではない。峰の腹で肉を打つ、厨房で硬い塊を柔らかくするための動作。
「あっ!?」
すると、怪物の足がわずかに震えた。
(止まった..?)
普段ならば再生しかけていた筋肉の表面が、不自然に波打った。
怪物が咆哮を上げ、再び前足を振り下ろし、突進する。
(ヤバい、ヤバいやばい!何で勝手に投げられ!)
包丁を投げたその手に嘆くも、今は無意味だった。もはや怪物は、大虫、大虎はこちらにその足先を押し当ててこようとする
ドン!
怪物が廃屋の壁をぶち破った、木造の残骸が爆発するように飛び散った。
それでも跳躍してきた勢いのままに、高速で木々をへし折り、向かってくる。
シュ
梁の破片やらが矢のように飛来し、頰を切り裂く。
やがて血が噴き、視界の左半分が赤く染まる。
木の根元に背中を預けているのを何とかして横目で気づく、そしてそこを支えによろよろと立ち上がろうとしたが、右足首が内側に捻れ、激痛が電流のように走った。
折れている。間違いない。なのに、立たなければならない。立たなければ食われる。
ガキィン! という硬質の音が響き、包丁が蹴り飛ばされる音だ、峰が弾かれたんだきっと、それであいつに刺さっていたけど、それのが、そこから完全に吹き飛んだ!
血とかで滑っていたしまったのか、いや、見えた、すり抜けていくように、奥へと弧を描いて消える。
金属が木の幹に当たる小さな音が遠く聞こえたが、もう取りに戻る余裕などない。
立つことするままならないからだ。
「……あ……」
呆然とした声が漏れた。右手が空っぽだ。武器がなくなった。唯一の、鉄の優位性が失われた。
怪物がそれを察知したように、黄金の双眸が細まる。
無数の小眼が蠢き、獲物の絶望を舐め回す。
そこで足を止めて吠える。
自分を傷つけた獲物の苦しむ姿を見たいと思ったに違いない。
何だってその背中の肉突起が興奮したように波打ち、緑の膿を垂らしながら蠢くからだ。
声に内臓が潰されたような感覚がした、さらに不運にも倒れてしまった、ちょうど立とうとして、支えがままならないからだ。
故に地面に這いつくばる形となる。
そのまま、後退した。正確には、後退と言えるほどの距離ではなかった。
右足首は完全に折れ、左肩の傷口は肉がめくれ、血が土を黒く染めている。
冷たい夜気が傷に染み、焼けるような痛みが波のように襲ってくる。
(ない……包丁が……ない……どうすりゃいい……!)
頭の中が真っ白になる。
想像力が、死の恐怖に駆られてフル回転する。
石器時代の人類がマンモスに立ち向かったという妄想など、もう通用しない。
ただの柔らかい肉塊になった自分が、目の前の黄金の死神とどう対峙できるのか。
柔らかく、美味しい肉....
(肉..?柔らかい)
怪物が低く咆哮を上げ、考えを打破した。
ゴリゴリと音をしては森の木々がその巨体に押され、軋む。
這うようにして後退しようとしても、近くの倒木に足ををぶつけた。
その衝撃のせいか、吐き気がしてくるし、ますます近づいてくる血の臭いと腐肉の臭いが濃く混じり、なお吐き気が込み上げる。
「……は、はあ……はあ……」
荒い息だけが白くそこへと溶ける。
もう何もできないという恐怖で息を吐くだけだった。
泣きたい気持ちしかなく、しかし、苦痛はなきことすら許さず、必死に呼吸して何とか和らぎのを期待するしか無かった。
口から血が溢れ、地面に小さな池を作っている。
いつの間にか観察する力でも上がってきたように、周りの全てが気になり始めた。
冷たい土が頰に張り付く感覚、そこで腐葉の臭いと自分の血の鉄臭が混じって鼻腔を焼く。
しかしやがてそんな高まった感知が錯覚なのか真実なのかすらも判明できなくなるほどに視界がぼやけ、端からなのか、あたりが暗くなり始めている。
(さ、むい....)
出血が多すぎる。体温が奪われていくんだ。
(動け……動けよ……足……手……)
脳が必死に命令を出すが、体はほとんど応じない。右腕だけが、指先で土をわずかに掻くことしかできない。
グリ
爪が土にめり込み、剥がれる痛みすら遠い。
きっと傷がさらに酷くなっているか、そう思ってしまう。
だから想像力が暴走する、どうすれば生き残れるか。どうすればあと一秒でも長く息を繋げるか。
頭の中で何度もシミュレーションするが、現実は残酷だ。
何も思いつかない。
散歩でもするように怪物が近づく。
だが重さのせいでやはりあたりは響く。
そして、首を低く伸ばし、熱い硫黄混じりの息を吐きかける。
必死に首だけを捻った、怖い
わずかに捻った。
首筋の筋肉が引きつり、激痛が走る。
(石……近くに石……枝……何でもいい……)
視界の端に、指が届きそうな位置に拳大の石がある。
「....!」
右手を伸ばそうとするが、肩が動かず、指先から土が落ちて降るばかり、汗と血が混じり、土に黒い筋を引くだけだった。
心臓が早鐘のように鳴る。
酸素が足りない。肺が重い。
怪物が前足を一歩踏み出す。地面が震え、鄭の体がわずかに跳ねた。
爪の先が地面を軽く抉るだけで、土が彼の顔にかかる。
「う……ぐ……」
声にならない呻きが漏れる。痛みはすでに鈍く深い。
体が自分のものではないように感じる。死に近い。死がすぐそこまで来ている。
動いてくれと、ただ自分に祈り続けら、もし体が動けば、木の陰に滑り込むば、石を投げて目を潰すば、転がって距離を取ればと。
だが現実は、指一本動かすのも精一杯。腰から下が痺れ、冷たくなる一方だ。
内出血か、脊髄損傷か。もう判断できない。
右肘にわずかな力を込め、体を横へ傾けようとする。数センチ、体がずれた。
怪物がそれを面白がるように、軽く突く。
ゴロリ体が転がり、仰向けになる。
「あっ」
空が、木々の隙間から見える。星がぼんやりと瞬いている。
怪物が巨体を覆い被せるように近づく。黄金の毛並みが血と膿で汚れ、なおも圧倒的な威圧感を放つ。
再生の音か、泡立つ音が、やつの方からおそらくは傷口から聞こえる。
震える唇で、掠れた声を出した。最後の抵抗はこれしかないように縋った。
「……まだ……まだ……死にたく……ない……」
言葉はほとんど息だけ。
怪物がそれに反応したように牙を剥いてきて、あまりの恐ろしさに目を閉じかけたが、すぐに開いた。
閉じたら終わりだ。想像の中で。
だが、死は噛み殺されるだけではないかもしれない。
冷たい風が森を吹き抜け、血の臭いを運ぶ。
それが象徴するのは温度が急激に下がっていく。
体温と共に、意識も遠のき始めていること。
怪物が首をさらに低く下げ、牙を鄭の胸元に近づける。ゆっくりと、それはもはや脅威のある獲物への動きではなく、まるでおもちゃへの扱い方だった。
だがそんな甘い思考も消える、現実に倒されたわけではない。
意識が途絶え始めているからだ。
やがて怪物前足が再び振り上げられる。
だがその爪が地面を抉り、土と枯葉が爆散するだけで鄭傑を踏み潰してはいない。
ただ風圧だけで体が浮きく。
「う、うわああっ!」
悲鳴を上げながら、彼は近くの石を掴んだ。
握り拳大の尖った石。怪物に潰されてちょうどいい武器。
それを力任せに怪物へ叩こうとするも、怪物はそれを気にせず噛みついてくる。
避けきれない。
怪物がゆっくりと牙を鄭傑の肩に沈めた。
ズブッ、という肉を裂く音がした瞬間、激痛が脳を貫いた。
何だって骨が露出する音まで聞こえた気がした。
熱い血が噴き出し、怪物の舌に滴る。
「……ぐ、ああああっ……!」
声にならない叫びが喉から漏れている。彼から。
捕食だ、これを誰が受け入れられるのだろうか。
体はほとんど動かないのに、痛みだけは鮮明だった。怪物が首を振り、鄭の体を軽々と持ち上げる。右足と左腕がだらりと垂れ、血の糸を引く。
ニョル
怪物が口を大きく開き、鄭の頭と上半身を一気に咥え込んだ。
そこから暗闇と湿った熱気が一瞬で彼を包む、闇のうちでは粘液まみれの舌が顔を舐め回し、硫黄と腐肉の臭いを彼の鼻や鼻へと無理矢理に流し込む。
吐き気が込み上げるが、吐く力すら残っていない。
(飲み込まれる……! 中に入ったら終わりだ……胃液に溶かされる……!)
暗いせいか、彼の想像で恐怖が増幅している。
暗い食道を滑り落ち、酸に焼かれながらゆっくり消化される自分を彼は思い浮かぶ。
まだ息があるうちに肉が溶け、骨が露出する光景が脳裏を駆け巡るであろうという幻想。
彼は必死に首を捻り、怪物の上顎に後頭部を押しつけた。
それはわずかな抵抗しかし頭が怪物 の唇の端に触れ、牙がそれを引っ掻く。
ただ皮膚が裂ける感触が伝わる、何だって怪物は意に介さない。
ゴクリ、という音が頭上から響いた。
怪物が舌を回した、意地汚い食べ方と言いたくなるそれは、丸呑みである。
それの喉が動き、鄭の肩を食道へ引きずり込まれようとする。
感じるとすれば熱く粘つく肉壁が肌に張り付き、圧迫してくる感覚、故にきっと息が苦しく、肺が潰されそうになる。
「う……ぐ……出……出ろ……!」
掠れた声で呟きながら、彼はもがく
しかし怪物は執拗だった。
舌が鄭の腰を巻き込み、ゆっくりと奥へ引きずり込む。
そのせいで肋骨が軋み、折れた骨が内臓を刺すことになる。
そうして彼の口から胸からと大量の血が逆流し、怪物の舌を濡らす。
「ああああ!」
潤滑油の作用でもあるように、どんどんと呑み込まれる。だから叫ぶ。叫ばないわけにはいかない。
ゴクン……。
再び喉が動いた。
彼の体が一気に奥へ滑り落ちる。
腰まで飲み込まれ、足だけが外に残る。
怪物が満足げに舌を動かし、残った足をゆっくり咥え込もうとする。まるで飴玉でも食べているようだった。
「……いや……まだ……!」
声はもう、怪物の体内に吸い込まれるせいで、ただ、微かな振動だけだった。
彼は必死に足をばたつかせようとしたが、動かない。動くたびに怪物の肉が微かに痙攣するだけだ。
鄭は体を丸めた。
折れたはずの、傷だらけの体にできる最後の抵抗だ。
防御だ。
骨が軋む音がした。皮膚が裂け、肋骨にヒビが入るような衝撃で、肺から空気が絞り出され、血混じりの咳が飛び出す。
傷口に染み、激痛だ。
(痛い……痛い痛い痛い……全部痛い……死にたい……でも死にたくない……!)
想像が暴走する。
どうすれば生き残れるか、どうすれば一秒でも長く生き延びられるか。
木の枝を折り、尖らせ、投げる。
石を投げる。
泥を掴んで目潰しにする。
転がって距離を取る。
死角を作る。
背中の肉突起の付け根。足の腱。腹の下。
(ここさえ出ればいくらでも!?)
だが現実は残酷だ。彼は今や体内だ。そんな夢を見ても意味はない。
やがて、狭い通路の先で空間が広がった。
胃袋の中だ。
ドプン、という音とともに、彼は熱い液体の中に投げ込まれた。
胃袋の内壁が全身を締め付け、粘液が無数の傷口に染み込むこと。
当然に火傷のような痛みが襲いかかりまるでそれは神経を焼く。
折れた肋骨が内臓を抉るたびに血が逆流して口と鼻を塞いだのか、彼が息をするたび、肺が酸っぱい粘液で満たされていく。
胃液が一気に全身を覆い、被り、呑み込む、呑み込まれる、皮膚が、まるで熱湯に浸されたように泡立ち、溶け始めた。
「あ……ぐ……ああああっ……!」
声はもう、怪物の中に響くだけだった、誰も聞かない叫び。本当の意味で悲しい叫び、でも止められない。酸が傷口に流れ込んでいくからだ、それは肉を削り、皮膚を赤く腫れさせ、すぐには白くふやかして剥離していく。
その姿はまるで蝋が溶けるように、腕の表面が流れ落ちる。
「ひ、嫌だ!俺は俺は!やっと力を手に入れられて!やっと好き勝手できるんだあ!成功すれば。成功すれば!」
溶かされる。
体が分解され、怪物の中に混ざり合う。血が胃液に溶け、肉片が壁に張り付く。骨が露出する部分では、怪物自身の組織が彼の傷口に絡みつくような……まるで取り込まれているというより、怪物の中に溶け込む感覚。
(これが……死……?)
想像していた消化の苦しみとは違った。
痛い。苦しい。息ができない。
そんな怖いことが続くのに何かが徐々に消えていくような。
まるで、同時に、怪物と一つになっていくような、奇妙な一体感があった。
心臓の鼓動が、怪物のそれと重なり合う。
自分の血が、怪物の栄養となり、筋肉となり、牙となり、爪となる。
足の指が溶け、骨が露わになるのか、左手が、すでに形を失っていたのを彼は気づいている。
おかしいはずだった。
彼の視界は真っ暗なはずだが、脳がまだ働いてい作った幻覚か、それとも本当か——怪物の中を流れる熱い血流が、彼の体を巡っているとでもいうのか。
(溶ける……俺は……怪物に……なる……?)
肋骨が酸に浸され、ゆっくりと軟化していく。
肺が収縮し、最後の空気を血混じりの泡として吐き出す。
まるで彼が本当に小さな子供の頃に楽しくやって舌で泡を吹かせているような景色だと、そう一瞬と彷彿した。
それほどまでに意識が朦朧としていた。
やがて怪物は腹中を満たした満足感からか、ゆっくりと巨体を揺らしながら森の奥へと歩を進めていた。




