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神樹祭当日

ついに当日を迎えました。

「こちらA班、準備完了だ」

 インカムの調子も首尾も良好。

「暗転してくれ。神樹祭を始める」

 舞台袖にいる俺のインカムからの声で、全校生徒が収容されている体育館の照明が全て消えた。先日の実行委員会での打ち合わせ通りに、ステージのある一箇所にスポットライトが当てられる。

 吹奏楽部のエースによるソロ演奏だ。その少女は、聴衆に挑戦的な視線を向けたり、時おり目を閉じたりして、演奏技術だけじゃない彼女の魅力で、周りを惹きつける。

 演奏するのは、もちろん凰花。これで一気に吹奏楽部への評価がより高まり、フィナーレ企画の集客がさらに見込めるというものだ。

「流石だな」

 その後は2曲ほど、オープニング企画として吹奏楽部は演奏した。

 つつがなく演奏が終了し、拍手が巻き起こる。沢山の拍手の雨に、当てられた吹奏楽部一同は誇らしげな顔をしている。舞台袖に最も近い、隅の方にいたひたきも俺にドヤ顔だ。

 拍手が鳴り止まない中、司会が入る。

「吹奏楽部の皆さん、素晴らしい演奏をありがとうございました! 以上を持ちまして、オープニング企画を終わり、開会式に移ります。まず初めに、実行委員長挨拶。委員長お願いします」

 再度暗転し、その間にステージ中央にスタンドマイクが用意される。スタンドマイクの位置にスポットライトが当てられ、そこに向かって歩き出す。一礼し、マイクに近づいた。

「今年度、神樹祭実行委員長の宮崎鶫です。まず初めに、今日という日を無事に迎えられたことを——」

 俺はスタンドマイクで実行委員長挨拶として、当たり障りの無いことをつらつらと並べる。ステージという見晴らしの良い場所で、どれくらいの人数の来賓が来ているかを確認する。生徒の保護者はもちろん、他校の生徒や地域のお偉いさん方も、少なくない人数が来ているようだ。

 ステージ以外は暗転していて、来賓席までは距離があるため、顔まではよく見えない。ただ、どこかで見たことのある他校の生徒が目に付く。

 あいつどこかで……。

 まぁいい。俺の思い過ごしかもしれない。とにかく、見たところ警察関係者がいないということが救いだ。ここからフィナーレに向けて、人は増えていくことが予想される。警戒は怠らないように気を配ろう。

 俺の実行委員長としての挨拶も終盤に差し掛かり、聴衆に言い聞かせるように、結びとして、重要なことを話す。

「——最後に、オープニング企画として、この場にいらっしゃるほとんどの方々が、我が校が誇る、吹奏楽部の演奏をお聴きいただいたと思います。本日の神樹祭のフィナーレ企画としても、吹奏楽部の演奏がございます。オープニング企画以上の、我が校の歴史に残るような素晴らしい演奏をお聴かせするとお約束いたします。どうぞ、最後まで神樹祭をお楽しみください」

 吹奏楽部をここまでか、という程に持ち上げ、一礼して降壇した。

 顔を赤らめて手で覆い隠す顧問や、お互いに肘で小突き合う吹奏楽部員たち、そして、ドヤ顔で腰に手を当てる凰花。ざわざわと期待で胸に膨らませる来賓と一般生徒たち。色々な生徒の表情を見やり、俺は席に戻った。

 ここから先は、それこそフィナーレまで大きい仕事はない。

 ムクや望月など、多くない友達と最後の平和な学校を楽しもう。

 その後は学園長挨拶や保護者代表の挨拶と、進行通りに開会式が終わり、いよいよ本格的に神樹祭が始まる。

 有志団体の漫才やバンド、美術部や化学部など文化部の展示紹介、研究発表、あとは体を張った教員の劇などが行われ、大盛況の中、午前の部が終了した。

「これにて午前の部を終了いたします。ここから2時間ほど、展示見学と昼食の時間になります。午後の部の開始は1時を予定しています。時間まで、席にお戻りになるようお願いいいたします。それでは、実行委員から順に移動を開始してください」

 俺は席を立ち、体育館から校舎内に戻る。

 長くない渡り廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられた。

「鶫くん! それとも今日は、実行委員長って呼ぶべきかな? 午前の部、お疲れ様。開会式の挨拶カッコ良かったよ」

「水瀬、お前のほうこそお疲れ。立ちっぱなしで疲れてるだろ? まだ午後の部もある。この時間を上手く使って、ゆっくり休んでくれ」

 3年ともなると必然的に他学年に比べ、重要な仕事が多い。特に水瀬は任されると断れない性格だ。準備期間でも、自分の部門外でも、後輩たちのサポートに駆け回っていた。

 水瀬は首を振り、ツインテールを左右に揺らす。空調の効いた体育館とは違い、外はまだまだ暑い。水瀬の首元にも、汗が滴っている。

「実行委員長に比べれば私の仕事量なんて大したことないよ。でも私、体力ないからちょっと疲れちゃったかも。良かったら、一緒にお昼食べよ?」

 疲労困憊の中でも、明るい笑顔を忘れない水瀬。俺はこの後、この明るい笑顔を裏切ることになる。外の気温とは裏腹に、俺の内部の体温はどんどんと下がっていく。

「鶫くん? 顔が怖いよ? もう、誰かと先に約束してた?」

「……あぁ、悪い。そんなことはないよ。適当にそこら辺で買って、食べよう」

 俺は隣に来た水瀬と校舎一階の特別教室を使ったPTA主催の出店に向かう。

「鶫氏ー! ランチをご一緒キボンヌ。ワイもお腹空いたんやで……って水瀬氏!? お邪魔してしまったンゴ?」

 俺と水瀬が話している間にどうやら、一般生徒も体育館から出る時間になったようだ。俺のことを昼飯に誘おうと真っ先に体育館から出てきた望月と水瀬が鉢合わせる。ばつが悪そうな顔をした水瀬が頬を引き攣らせながら、俺を見てくる。

 一方、望月はというと、勉強に関してはダメだが、決して人の顔色が分からない馬鹿じゃない。何かを察して、俺に頼りない顔を向けてくる。

 お前ら、お互いにそんな顔をするな……。

 居た堪れなくなった俺は一つの提案をする。

「せっかくの神樹祭だ。三人で食べないか? 俺も実はもう、お腹空いちゃってさ」

 お腹を摩り、苦笑いをしてアピールをする。いつもこういった空気感に耐えられなくなるのは俺の弱点だな。

「ワイは賛成やで。水瀬氏、ワイも同席良き?」

「まぁ、鶫くんが良いなら……」

 少し表情が固い水瀬だが、何とか了承を得た。

「良かった。行くか」

 我ながら何が良かったのだろうか……表情がいつもより固い、気まずそうなパーティーメンバーを引き連れ、俺は出店に向かった。


 フィナーレだ。間違いない。

 この会場の空気感。来賓の人数の入り方。実行委員長であるあいつの言葉。吹奏楽部の力の入れ方。

 そのどれを取っても、あの日、男から聞いた全ての条件が、俺の中で一致する。

「……テロリスト共、フィナーレで何をするつもりだ……」

 俺はあいつに気取られないように、後を尾ける。雑踏とする人混みの中、怪しまれないように歩を進める。途中、見たことのある三白眼を見つける。

 まさかここで会えるとは……。

 生徒と談笑する奴を見て、そちらに早く接触したほうが良いと思い、近づこうとする。

 瞬間、横目で捉えられ、その場から動けなくなった。

 まるで視線でこちらに来るな、と言われているようだ。

「おい、あれって出口じゃね?」

「え? あの世代別に選ばれてる?」

 サッカー関係者だろう。しばらく立ち止まっていると、俺を知っている生徒が周りで噂を始めた。

 この状況は良くない。少しでもあいつに情報を渡したくない。

 そこで、ふと思った。

 どうして俺は、あいつとテロリストを同一人物として考えている?

 人混みの真ん中で俺は自分自身の思考にブレーキを掛けられず、立ち尽くした。

 なぜ? どうして? という単語が脳内を行き来する。

 俺は首を振り、体に刺激を与えることで無理矢理にでも、思考を切り替える。

「今はそんなことどうでもいい。俺は俺が成すべきことを成すだけだ」

 フィナーレに向けて、運命が廻る。

次回、第一部最終章です。

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