第九百九十五話
次元の裂け目の内部だが、かなりグネグネした風景になっている。
タイムマシンのガラスには特殊な付与魔法が掛けられているので内部に乗っているものが酔うことはないのだが、もしもそれがなければヤバいことになっていただろう。
まあそれはそれとして、運転席に風香が座って、椿はその後ろでニコニコしていた。
オールハンターの保存箱の子機からコードが延びており、そこから様々な電子機器に接続できる。
これによって、中にどんなものがあるのかを使い慣れた端末で確認することができるのだ。
スマホにつないで中を見たのだが、そこにはセフィアが作ったアルバムが入っていたのである!
「楽しい写真がいっぱいですよ。ラターグさん!」
「……僕のお腹に頭を乗せて椿ちゃんが寝てるね……あれ、こんなことされたことあったかなぁ」
ラターグにとっては二十年前の出来事なのでうろ覚えどころではない。
そりゃ椿はかわいいが、彼にだってやることはないわけではないのだ。
……まあ、確かに、ラターグのお腹を枕にしてスヤスヤ寝ている椿もかわいいけどね。
「フフッ。椿はどこでも寝られるからねぇ」
「そうですよ!むっふー!」
周りが全部味方と思っているということもあるだろう。
産まれた時から周りに人は多かったのだ。過去に飛んだことで『こんな少女が産まれてくる』ということが知れ渡っているため、風香が産婦人科に訪れた時にはみんな『おっ!』となったものである。
産まれた時からよくはしゃぐが、泣くことはほとんどない。というか、いくら椿でも赤ん坊のころは単純なので、究極メイドであるセフィアがどうにかできないわけがないのだ。
警戒心も危機感もないため、はしゃいでいる時以外の椿はどこでも寝られる。
「あと、なんだか、疲れている表情をしている人も結構いますね。どういうことなのでしょうか?」
椿が絶対に写っている写真だけがアルバムに収められている。
そしてそれを見ていると、なんだか疲れているような表情をしている人間が周りに多いのだ。
(……そんな難しい問題でもないんだけどね)
ラターグはそう思った。
別に難しいことではない。
そもそも椿が持つ雰囲気は他者に解放感を与えやすい。
人間というのは別に普段からあんなことをしなくちゃ、こんなことをしなくちゃと考え続けて生きているわけではないのだが、それでも何かしらストレスを抱えて生きている。
椿はそこから解放する雰囲気が強いのだ。
……ちなみに、最も疲れている雰囲気が出ているのは魔法省である。
絶妙に機密事項が写らないようにアングルが考えられつつ、色々な人と写っている。
「まあでも、やっぱり秀星君や風香ちゃんと一緒にいる椿ちゃんが一番笑顔だね」
「当然よ」
「……でも、写真を見る限り、一番頼りにしてるのはセフィアかな」
「え!?」
運転中の風香が驚く。
……まあ、当然のことである。
いくら秀星と言えど、子育てのことまではわからない。セフィアに任せる部分は多いだろう。なんせ究極メイドと定義されているほどだ。
確かに秀星は戦力という意味で頼りになるし、風香は専業主婦なので一緒にいた。
別に風香は家事ができないというわけではないのだが……家事のほとんどを行っていたのはセフィアであり、掃除にしても部屋の飾りつけにしても、『セフィアが作った空間』に対して愛着が強いのである。
こればかりはメイドさんの強さというものである。
「む?」
よくわかっていない椿。
「……むう。でも、なんといいますか……」
モヤモヤしている椿。
「……もうそろそろ言った方がいいんじゃない?」
「そうね。椿ちゃん。過去留学のレポートを作ったでしょ?」
「そうですね!」
「見せてくれる?」
「はい!」
鞄からレポートを出して風香に見せる。
風香は運転をオートにしつつ、そのレポートを読んだ。
「うん……よくできてるけど、本当に言いたいのはこれじゃないんだよ。きっと」
「むっ!」
椿の頭上十五センチで電球がピコンッ!と光った。
「もちろんこれを見せてもいいけど、聡子さんには本当に言いたいことを言った方がいいかもね」
「わかりました!」
ぱああああっ!と、過去一番の笑顔を浮かべる椿。
……どうやら、疑問は晴れたようだ。
★
「帰ってきたですううう!」
タイムマシンが未来に帰還した。
椿はタイムマシンから顔を出しつつ叫びだす。
「椿ちゃん。着陸するまで騒いじゃダメだよ」
「あ、そうですね」
「……そういえば、風香ちゃんって着陸できるの?」
「風属性魔法で強引にやるわよ」
「ダメですよ!お母さんがそういうことを言ったときって大体大破するじゃないですか!」
「問題ないわ。壊れたらまた作ればいいのよ!」
「かっこいいセリフはかっこいい時に言わないと寒いだけですよ!三十七にもなって何やってるんですか!……痛いですううう~~~っ!」
アイアンクローが炸裂した。
椿には効果が抜群だ!
「……椿ちゃんは着陸できるんだよね」
「できますよ!」
自信満々の椿だが……正直、着陸の方法がよくわかっていない大人二人と、不時着経験がある子供一人でタイムマシンに乗る方がおかしいのだ。
というわけで……。
「何やってんだか……」
「あ、お父さん!」
白衣姿で、左手の薬指に指輪があることを除いて二十年前とほぼ変わらない秀星が現れた。
そのままタイムマシンに魔法をかけて、的確に減速させていく。
着陸成功!
「おおっ!なんかスーッと着陸できました!」
「さすが秀星君」
「まあ、来ると思ってたけどね」
三者三様といったところか。
「あ、お父さん。私は聡子お母さんにレポートを提出してくるので、行ってきますね!」
「ああ。行って来いよ」
椿は満面の笑みでレポートを掴んでバヒューン!と去っていった。
「……で、風香、過去はどうだった?」
「やっぱり、過去の秀星は強かったわ。さすが全盛期というだけあるわね」
「だな、ちょっと今の俺は『制限』がきつすぎるからなぁ……」
「フフッ。まあそれはいいや。さてと、僕は寮に行ってくるから、それじゃ」
「ああ。しっかり働けよ」
「わーってるって」
ラターグも歩いていった。
「……さてと、椿の様子を見る限り、アレで問題なさそうだな」
「そうね」
満足そうに椿が去っていった方を見る二人。
どうやら、満足する結果になったらしい。
★
「聡子お母さん。ただいまですよ!」
「お帰り、椿ちゃん」
とある保育園。
そこでは、聡子が着物姿で待っていた。
二十年という時間の違いがあるのでそれ相応の成長はあるが、かなり若々しい。
今では本当に『母親』なので、二十年前の聡子と比べても風格はある。
「レポート。しっかり書いてきました」
「そう」
二十年前、聡子は椿のレポート作成に付き合っている。
そのため、どのような内容なのかは微粒子レベルで覚えているのだ。
レポートを読んで、最後に誤魔化すために添えられたテヘッ☆を見て微笑む。
「でも、私が本当に言いたいのは、それじゃないんですよ」
「わかってるわよ。ここでいろいろ話していきなさいな」
「むっふふー!」
続く椿の結論は、とても椿らしく、幼くて、元気いっぱいなものだった……。
私が過去で学んだのは、やっぱり、みんなでワイワイやると楽しいということですよ!むっふふ~♪




