第九百九十三話
「いやー。椿ちゃんは急に状況が変化しても対応力があるからいいよね」
ラターグは『皆で写真を撮りますよ!』と走り回っている椿を見ながらそうつぶやいた。
「全部貴方の言葉に従っているせいでしょう」
「全く否定できないね。たしかにそうです」
隣に来た未来の風香を見つつ、ラターグはそう答える。
「ただ、変な嘘をつくのはやめておいたほうがいいわよ」
「あ、やっぱりバレます?」
ラターグは苦笑する。
「椿が帰るのが一日早くなった原因は別にあるんでしょうけど、それを説明している時間はないから全部貴方のせいにすることにしただけなんじゃないの?」
「もちろんさ。未来の秀星君が計算を間違えることはないし、僕はコーヒーなんて飲まないよ」
「……で、私がこの時間に来てから何があったの?」
「それは帰ってから秀星君が説明するってさ」
「そういうことにしておくわ」
風香はほほえみながら椿を見る。
「……で、君は神器を渡してるのかい?」
「当然よ。あれがこの時間にないと私も困るし」
「……ま、ここでこの時間の君を心配する必要はないか。秀星君に頼るでしょ」
「当然よ。秀星のほうがより真理に近い。未来の子どもたちを接点としたつながりもある。踏み込んだことを聞く材料はしっかり揃ってるわ」
余裕綽々。といった様子の風香。
どこか他力本願っぽい印象があるものの、まあ深く考えたところで意味はない。改善する気はサラサラないだろうし。
それに、神祖の神器となればラターグもまた理解が薄い領域だ。
神器のコアを作った創造神ゼツヤとつながりがあるラターグであっても、その上限はわからない、
「……利用できるものは利用するというか、迷惑をかけることに躊躇がないというか……」
「私だって見境はあるわよ」
「まあそうなんだけど……」
ラターグ自身、なぜ自分がここまで納得できないのかまだわかっていない。
ただ、理解できないものが朝森家には多いことも事実。平和なのは椿の弟くらいだろう。
「まあいいや。お、写真をめちゃくちゃ撮り始めたね」
「セフィコットがいるからこうなっても楽ね」
「そもそもビデオカメラ回してるからなぁ……あ、何も持ってない子が転んだ」
「あれってどういうことなのかしら」
「何も持ってないとドジっ子属性が出てくるとかそんな感じでしょ」
「セフィアは何を考えてそうしたのかしら」
「というより、何かを持っているときは真面目に……いや、あれって真面目ではないか」
「真面目というより不憫ね」
なんてこった。
「あー……シャッター音がすごいことになってきた」
「もうすぐ終わりそうね」
「そうだね……ところで、君はどうやって帰るのかな」
「私のマシンはこの時間に来るための燃料しかないわよ。急いで椿ちゃんに会いたかったから着陸ができなくて大破したし」
「行ったことが結果としてテロ行為に繋がるのがなんとも朝森家らしいね」
苦笑するしかない。
「椿ちゃんのマシンって何人乗れるのかな」
「さあ……あ、セフィコットがタブレットを見せてきた」
「え、五人乗りって……未来の秀星くんは一体何を想像してるんだろうね」
「わからないけど、まあ乗れるから問題ないわよ」
「そういうことにしておこうか」
すごく頑張っている長女を見つつ、話し合う未来の二人。
……帰還の時は近い。




